【Vol.278】上を切れば横に伸びる

 思わずハッとしました。「上を切れば横に伸びる」と聞いたときです。言われた方は、創業から50年になろうという会社の役員さんです。この会社、自動車関係の部品を作りながら、堅実に業績を伸ばしてきたのですが、創業時と今では、作っている物は随分と変わって来ているそうで、普通、部品メーカー、特に自動車や家電製品の部品メーカーは、どちらかと言うと単品製品に特化し、大量生産効果によるコスト競争力で戦っているのですが、この会社のように、製造する製品を多様化して、其々の“先行利益”を積み上げている会社はあまり見かけません。ですから、なぜそのようになったのか、その理由を訊いたときのことでした。「上に伸ばそうと思うとコスト競争、だから、横に伸ばそうとしただけですよ。植物だってそうでしょう、上を切ると、自然に、横に伸びるのですよ」。

 何という名言でしょうか。私は目からウロコ状態になってしまいました。いつも、価格競争に陥らないようにするにはどうするか、「価格競争なきものづくり」という本まで書いている私にとって、この言葉は、まさに衝撃的と言えるほど納得できるものでした。

 日頃、ものづくりをしている経営者に現状の課題や問題点を伺う時、いずれの経営者からも同じ答えが返ってきます。「うちの従業員は真面目で技術もあるが、コストでは負けている。もっと安く作らないといけないのだが…」。このようなメーカーに共通しているのは、製品の種類は少なく、生産体制は自動化・省力化が進み、まさに単品・大量生産で業績を伸ばして来たのです。昔、高度経済成長期に流行った歌謡曲に「スーダラ節」というのがありました。その歌詞には“分かっちゃいるけど止められねぇ”というくだりがあったのを覚えておられましょうか。まさに、我が国の部品メーカーは大量生産・薄利多売路線に酔いしれ、このまま行ったら、いつかは海外メーカーにコストで負ける、それが分かっていた筈なのに、目の前の「量のうま味」を追っているばかりでした。

 それが、気が付いたときには、台湾、韓国、中国メーカーが台頭し、アッという間に我が国メーカーを抜き去ったのでした。

 この会社の凄いところは、中小企業でありながら多様性を選択したことでした。常に幾種類もの開発を続け、他社に先駆けて新製品を提案して先行利益を上げる。そして、同等もしくはそれ以上の製品が出そうになる前に、さらに次の製品を提案する、その繰り返しだったのです。多くの中小企業が、量のうま味に飛びついて、生産効率を上げることに全力を上げる中、それを敢えて追わずに、あたかも、植物が上に伸びようとするその枝葉を切ってしまい、横に伸びるしかないという状況に自らを追い込んで来たのです。

 如何でしょうか、私たちは成長と言うと、直ぐに上に伸びることを考えます。しかし、この会社のように、横に伸びることも、確かな成長と言えるのではないでしょうか。

 そう言えば最近、弊社社員の中に、横に成長している人がいるのです。特にお腹の周りの成長は著しく、着ているシャツのボタンはパンパンで、そのうち弾け飛んでしまうのではないかと思うくらいの成長ぶりです。

 そうなんです、今まで私は、それを見てただの肥満と思っていたのですが、これからは成長しているのだと思うように致しましょう。

 これも立派な成長なんですね、T君!

 以上