【Vol.267】信頼産業

 最近、銀座の三越に行きますと、大勢の外国人、特に中国からのお客さんが多いのに気付きます。皆さんの金遣いは相当でして、特にブランド物を、文字通り買い漁るような感じで、お買いになっていらっしゃいます。でも、よく考えると、それは自国のデパートでも買える物で、多分、これだけの円高の時期にわざわざ日本で買うのには、何かの理由があるのではないかと思うのです。

 あれだけ、先の大戦の歴史観について、過剰ともいえる厳しい意見を浴びせる一方で、一体、これだけの信頼感を寄せる根拠はどこにあるのか、それを心配するくらい、銀座の三越(他のお店も同じです)は中国の方々でごった返しているのです。

 彼の地でのアンケートによると、日本人は嫌いなはずなのに、日本でこれだけの買い物をしてくれるのは、きっと、いや、よほど日本のことを信頼しているに違いありません。TVの報道などで見ている中国での彼らと、日本での彼らは、全く別人ではないかと疑うくらい、日本で買い物をしている彼らは穏やかで、ものごしは紳士的なのです。

 その理由、私が考えるには、日本だから安心、その一言ではないでしょうか。同じものは、自国でも売っている。しかし、自国では本当にそれが本物か、それが分からない。だけど、日本なら売っている物は本物で、決して日本人と日本のお店は嘘を付かない、インチキをしない、そう思って頂いているのではないでしょうか。

 確かめた訳ではありません。しかし、大震災後の日本人の礼儀正しさや、絆の深さを知った外国人が、日本という国をあらためて信頼できる国であることを、再認識したのではないかと思うのです。ならば、私達は、このことを積極的に様々な場面で、有効利用したらどうでしょうか。今まで、どちらかと言えば散々に貶(けな)していたのに、買い物をする時は安心している、つまり、私達を信頼しているのなら、これはチャンスです。

 例えば、日本商品を売り出す時に、今までは、品質やコスト、ここをPRして来たものですが、これからは、信頼性の一点だけを言うようにしたらどうでしょうか。品質は同等だが、日本製は信頼できる。コストは高いかもしれないが、日本製は安心して使うことができる。そのように言うようにしたらどうでしょうか。

 今まで私達は、品質やコスト、そして律儀に納期を守ることに一生懸命でしたが、そのいずれもが中国や韓国、そして台湾などの国々に追いつかれ、そして追い越されてしまった感があります。そして、その競争に勝つために、特にコスト競争力を高めようともがいているのですが、残念ながら、その出口が見えないのが現状です。

 さあ、これからは信頼性という競争力で勝負をしましょう。コストが高いと言われたら、信頼性に掛けたコストであると説明しましょう。品質が同等もしくは劣ると言われたら、信頼性を優先させた結果だと言いましょう。納期が遅いと言われたら、急がば回れ、急いでは信頼性を担保できないではないかと言いましょう。

 如何でしょうか、本当は私達自らが気付かなければいけない、私達の信頼性。それを、自らが一番必要にしていた中国人が、図らずも教えてくれているのです。今、信頼性をもっとも必要にしているのは中国をはじめとした、現代社会ではないでしょうか。

 まさに、その信頼性に感謝。謝謝ですよ。