【Vol.253】自己確認

 最近、講演の機会を頂くことが、本当に有難いことだと思うようになりました。何かのご縁があればこそ、その上、こんな私の拙(つたな)い話でもいい、そう言われてお引き受けする講演です。お引き受けした以上は、お聴きくださった方がどう思われたかは分かりませんが、私としてはいつも全力投球、しっかりと努めてきたつもりです。振り返ってみると、私にとっての講演とは、ご縁を大切にしようというのが、基本的なモチベーションだったと言えるかもしれません。

 それが、今年になってから、少し変わってきたのです。いえ、ご縁を有り難いと思う気持ちに変わりはありませんが、どうも、講演とは自己確認の場ではないか、そう思うようになったからです。

 さて、ここ数年、客員教授をしている大学での講義、新入生や二年生を対象にしているのですが、テーマは「イノベーションとは何か」です。

 最初(一年目)の講義は、携帯電話を操作する学生や、眠りそうな学生を教室から追い出したりと、講義に入る前の作業(本当に追い出してしまうのです)があったのですが、二年目からは、そのような私の気合が学生の間で申し送りされたのでしょう、教室もほぼ満席(250席。選択講座で申し込みが必要)で、携帯は勿論、居眠りする学生は一人もおりません。嬉しいことに、今年は定員をオーバーするほどでした。

 この講義、全力投球なのは勿論ですが、私の実体験やクライアントの活躍など、私が言うのもなんですが、まさに、学生にとっては初めての、しかも、貴重な話ばかりです。

 一応、レジュメはつくって配布するのですが、実際の講義は脱線しっ放し。変な話ですが、一生懸命に話そうとすればするほど、準備したシナリオと離れてゆき、話す方も聴く方もあっという間の90分間です。

 実は、自身の実体験や身近に起こったハプニング、それはある意味で、私の不肖(ドジな話)を曝(さら)すことでもありまして、実際にあった嫌なことや、面白かった経験、一番受けるのは、私の失敗談なのですが、なぜ失敗したか、本当はどうしたらよかったのか、そんな話をするのですから、結果、ドジで間抜けだったことがバレてしまうのです。

 しかし、過去を思い出しながら、その経験を、今と将来にどう役立てるか、そんなことを考えながら話していると、今なら、絶対に違う事をしているだろうと反省したり、嫌な事を想い出して腹が立ったりと、関連する事例が次から次に湧き出して、話は脱線しながらも、実は、私にとって大変重要な意味を持つ講義であることに気付いたのです。

 当然、間違っていたことを再認識することもありますし、逆に自信につながることもあるのですが、一番大切なことは、いつも前向きで、しかも、正しい姿勢を失わないようにすることが、これからも出来るのか、それを、自分自身で確認することが、大切なことだと分かったのです。

 さらに、それを講演という人前で話すことによって、言った以上は絶対に外せないと、自分に対して約束すること、それが、自己確認であると気付いたのでした。

 機会を頂いてやらせてもらう講演会。講演しながら、そこで自己確認をしていることに気付いた私、講演に対する姿勢と意識が、以前にも増して強くなったのは言うまでもありません。

 自己確認、それは人によっては十人十色、それぞれ違うのでしょうが、私は講演によって、常に更新されることになりました。確認することが、後退しないように、しっかりと努めたいと思います。

 …って、こう書くことも自己確認なんです。えっ、くどいって? スミマセン…。