【Vol.249】薄謝返し

 よく、講演の依頼を受ける時、主催者側の方から、薄謝ですみません、と言われます。しかし、そもそも行政や公的機関が主催する講演会は、講師料などは規定で決まっているのです。まして、私は、講演をお引き受けするかしないかは、どのようなご縁で依頼が来たのか、そのことを大切にして決めているので、講師料の多寡でお受けすることはありません。ですから、今まで、講師料のことを気にするなんて、殆どありませんでした。しかし今回は、講師料のことを、かなり気にしなくてはいけない羽目になったのです。

 委託事業の企画で、講演会を開催することになり、その講師を私が選ぶことになったのです。講師は直ぐに決まりました。というより、企画した当初から、この人と、既に決めていた方です。以前からその方は、ご自分が企画する講演会やセミナーに、時々、私を講師として呼んでくださっていた、大学の教授です。

 さあ、その方の講師料、それまで気にしたことがなかったのに、お願いををする立場になってはじめて、薄謝が気になるのです。

 この事業、行政の主催ですから、当然、講師料や旅費は規定があり、それに従うしかありません。一時間の講演をして頂くのに、遠方なので、一泊二日の旅程です。前泊してもらう宿泊費と旅費を併せて支払うのですが、明細を見ると、余計に薄謝が際立ちます。だって、旅費と宿泊費の方が、講師料よりも高いのですから、お分かりでしょう、くどいようですが本当に薄謝なのです。

 さて、講師をお願いするメールを出す時、私は“薄謝ですが”と書きました。いつも、私に対する依頼状に添えてある文言と同じです。

 書きながら、ああ、私に講師依頼をしてくださった方は、薄謝を気にして、ある意味で困った思いをされていたんだろうな…。なのに、それを知らない私は、呼んでくれた人の気持ちも考えずにいたんだと、何か、申し訳ないような気がしたのです。知っていれば、もっともっと有難いという気持ちになって、お受けすることができたのではないか、そんな気持ちになりました。

 講演の当日、講師の方に、そのことをお伝えしました。薄謝なのに、快くお受け頂いたことへの御礼と、薄謝のお詫び、というか、私が気付いたことを申し上げました。

 そうしたら、その方はこう仰ったのです。「いやあ、多喜さんはいつも呼ばれるばかりだから、気にしなかっただけで、気付いたのなら、それでいいじゃありませんか。私だって、今回、お金のことを気にしていたら、こんな遠くまで来ませんよ。多喜さんが呼んでくれたから来たのです。いつも多喜さんに薄謝で来て頂いていた、そのお返しです」。

 如何でしょうか、皆さん。薄謝を気にしながら、いつも私に声を掛けてくれる人。その人をお呼びする段になって、初めて薄謝の裏に込められた気持ちが分かった私。これからは、そのような想いをちゃんと汲んで、今まで以上にしっかりと努めますよ。

 …こういうのを、“薄謝返し”なんちゃって。