【Vol.245】プラットホーム居酒屋

 たまに、駅のプラットホームにある居酒屋でお酒を飲むことがあります。当たり前ですが、仕事が終わって電車を待つ少しの間です。この、プラットホームにある居酒屋、色々なタイプがある事に気付きました。この仕事をするようになって、40年も経ちますが、以前からお世話になっている(?)プラットホーム居酒屋の分類をしようと思います。

 先ずは、「紋切り型」。
 その地域の老舗や中堅のお弁当屋さんが経営しているようなお店です。昔からその地域の鉄道会社に口座を持ち、堅実な経営で知られるところが多いようです。しかし、どのお店に行っても同じメニューで、新しみも無く、店員さんも比較的若い人が多く、入れ替わりも頻繁で、客は黙って飲んで食べて直ぐ帰る、そんな感じです。

 次は、「お任せ型」。
 同じようなお弁当屋さんの経営ですが、個々のお店を、それぞれ店員さんに任せているお店です。個別のお店に、それぞれ専属とも言える、比較的高齢者の店員さんがいますので、昔からの馴染みも多くなり、中には、客を客とも思わないように親しく客を扱う店員さんもいるようです。

 そして、「個人店」。
 どのような経緯かは知りませんが、個人がプラットホームを借りているのでしょうか、個人で経営しているお店です。売り上げは、完全に自分のもの(勿論、経費の支出はありますが)ですから、それはそれは熱心で、自ずとサービスも良くなりますが、それこそ生活が掛っているのでしょう、つい、そのことを感じてしまいます。

 さて、大まかにこの三つくらいの分類になるのですが、私が好きなのは、「お任せ型」です。「紋切り型」は店員さんも楽しそうではありませんし、客もただ黙々としているだけでは、面白くも何ともありません。
 「個人店」も、愛想はいいしメニューもそこそこ、それはそれでいいのですが、私としては馴染めないのです。どちらかというと過剰接待というのでしょうか、丁寧過ぎる感じがしてイヤなのです。
 お気に入りは、やはり「お任せ型」です。従業員なのにどこかノビノビとした感じがして、大袈裟に言えば、その言動に、“任されている”という自負を感じます。当然、好き嫌いもハッキリしていて、イヤな客が来ると目線も会わせずに無視。とっとと帰れとばかりにブッキラボウです。好ましい、それはあくまでその店員さんにとってですが、最初から馴れ馴れしくはしませんが、ちゃんと気配りをして、電車に乗る時間を気にしながら、その時間に合わせるようなメニューで仕切ります。
 どうしてかは知りませんが、どうも、このお任せ型のお店は中京地域、つまり名古屋圏に多いようです。東北や九州にもありますが、どちらかというとその地域では紋切り型が多く、サッサと数をこなすような仕組みなのでしょうか。

 二十歳の頃から名古屋圏にクライアントがあったせいか、お任せ型に馴れていた私、ついこの間、40年間をタイムスリップしたように感じるほど、典型的なお店に出会いました。
それも、名古屋駅です。
今まで、何故、このお店に行ったことが無かったのでしょうか。まあ、いつもぎりぎり、或は、駅ではないところで飲んでいたからでしょうが、名古屋駅の在来線5番ホームに、その懐かしいお店があったのです。

 はじめは、一見(いちげん)客と思ったのでしょう、無愛想。ところが、私がちょくちょく名古屋に来ていると言うと、少し表情が和らぎ、もう40年も昔から通っていると分かった途端にオール名古屋弁。もう、同胞、そんな感じです。
 聞けば、メニューの中には、自分でつくった料理やつまみを持ち込んで、それこそ採算度外視で提供しているとのこと。それを目当てに、殆どの客は常連です。中には、小銭のない客にお金を貸したり、両替を客同士でしたり、客も完全にファミリーです。
 そう言えば、昔の飲み屋は、こんな雰囲気だったのではないでしょうか。客にこびず、さりとてちゃんと気配りもある。
そして、同じ目線で会話をし、一緒に居る時間をお互いに楽しんでいる。そんな飲み屋が当たり前だったような気がします。
多分、おばちゃんたち(70歳に近いと思いますよ。怖いから聞きませんでしたけど)は、時給いくらのパートタイマーでしょうが、ギスギスせずに仕事を楽しんでいるかのようでした。
 普段、あちこちでご馳走を頂きますが、私にとってのご馳走は、まさにこのようなお店で飲むことです。気さくな店員さんが、気さくな客を飾らない肴でもてなす。こんなお店がもっと増えるといいと思うのですが、如何でしょうか。そうすれば、雇用も増えるし、高齢者のコミュニケーションの場も広がるじゃありませんか。

 えっ、楽しく呑める場所を増やしたいだけだろうって?
…それは正解。ただ、私は将来、カウンターの中で働きたいのですが、皆さん、来てくれますかねえ?