【Vol.215】大潮のあとの潮溜まり

 面白いことに気付きました。それは、何かの産業や事業が大きく後退、或いは衰退する時にビジネスチャンスが出現するという現象です。

 クライアントが生産している機能部品、それを組み込んで製品化している事業、御多分に洩れず、この大不況の荒波にもまれて、いずれのメーカーも、存亡の危機とも言える厳しい状況に陥りました。
 クライアントはトップを先頭に、何とかしようとはしているのですが、予想すら出来ないほどの落ち込みで、暗い気持になるのは仕方ありません。ところが、ここに新しいビジネスチャンスがあることが分かり、まさに光明が見えてきたのです。

 詳しくは言えませんが、大手の部品メーカーも参入しているこの機能部品、そう簡単には作れない高度な技術が必要です。従って、誰でも簡単に参入できるものではありませんでした。メーカーは比較的少ないのに市場はそれなりの規模、当然、クライアントは勿論、いずれのメーカーも創業以来の大好況、増収増益の頂点だったのです。
 しかし、それ行けドンドン、誰もがそう考えていた絶頂で、文字通りハシゴを外されたかのような今回の大不況。誰も経験したことのないスケールで、爆縮と言ったほうがいいくらい、とんでもない市場収縮が起こってしまったのです。まるで、大潮のあとの引き潮がそのまま続いて、海水が全部干上がってしまった、そんな感じで市場が萎んでしまったのです。

 さあ、そこで何が起こったか、ここがポイントです。
 何と、大手メーカーが次々と、市場から撤退してしまったのです。清算と言った方がいいくらい、もう再起は無いとばかりに、一斉に市場から居なくなったのです。
引き潮どころではありません。それまで絶好調だった分、まるで津波が引いたあとのように、クライアントのライバルが消え失せたのでした。
機能部品を作るメーカーだけではありません。原料や材料を供給していたメーカーや販売業者も、大手は一斉に手を引いてしまったのです。

 さて、海岸に出かけたつもりで想像してください。大潮のあとの海水が引いた海岸、そこに残っているもの、そうです、岩礁に取り残された小さな潮溜まりが、あちこちに見えるのが分かります。
 そしてよく見ると、大潮なので、その潮位の高い分、それまでは届かなかった位置に潮溜まりが残っているのです。
 実は、これがクライアントにとっての新しいビジネスチャンスなのです。

 大潮が引いたあとの様なマーケット、しかし、全ての部品や製品が不用になった訳ではありません。いくら市場が萎んでも、ゼロにはならないのです。
 確かに大手メーカーは退却しましたが、それは、大企業の事業規模から見ると採算が合わなくなったという判断で、市場が消え失せたということではないのです。少なくなったのは間違いないのですが、そこには引き続き部品や製品を求めている顧客が居るのです。
 更に、それまでの市場拡大という大きなうねりの中で見えなかった新しいニーズが、少なからず存在しているのが分かったのです。
 当然、大手の手強いプレーヤーが居なくなったので、我がクライアントの受注が増えたのは言うまでもありません。しかも、新しい顧客からの開発依頼も来るようになったのです。

 これが、大潮のあとの潮溜まりの意味です。

 とかく、私たちは何かが衰退したり減少する時には失望したり、諦めてしまうことがよくあります。しかし、このように影響が大きい分だけ、実は、騒ぎの後にビジネスが隠れているのです。
 そう思うと、これからも激動する経営環境の変化、それは、新しいビジネスチャンスの始まりかもしれません。

 大潮のあとの潮溜まり。さあ、海岸に出かけて、その潮溜まりを覗きましょう。きっと、美味しい貝や魚がいるはずです。でも、くれぐれも毒クラゲには気をつけてくださいね。