【Vol.204】可逆事業と不可逆事業

 事業にも、可逆性と不可逆性があると思うのです。それは、これから新しいビジネスモデルを構築する時、競争力を高める為の一つの考え方で、私、結構使っているのです。
 分かりやすく、例えば、理科系と文科系人材の就職という視点で考えてみましょう。理科系人材、その人の出身学校は当り前ですが大抵は理科系です。様々な専門分野があり、特に大学以上のレベルになると専攻も細かく分かれていて、就職も、専門性が生きる分野のメーカー企業を探すのが一般的です。対して、文科系も確かに専攻も多岐に亘り、夫々の専門性もありますが、就職となると、営業、企画、経理、法務、総務、人事といったところになるようです。

 ここで、可逆性と不可逆性ですが、就職した後、理科系の人が技術の専門性を離れ、営業や企画、人事や総務に異動するというのをよく見かけます。しかしその逆、文科系の人が技術系に異動するのはめったにありません。言いたいのは、理科系は文科系との可逆性はあるが、文科系ではそれが少ないということです。理科系の人には、技術の有無を問題にしない文科系の職場に異動することはあっても、文科系の人が技術畑の職場に行くには、技術の専門性を持たなければならない高いハードルがあるということです。同じことが、企業にもあると気付いたのです。

 最近、あるメーカーの経営者に申し上げた事例です。その会社は、数十年にわたってものづくりに注力してきたのですが、ここに来て、(委託している)販社から卸価格の値下げ交渉が厳しくなって、思うような利益が上がらないというご相談を受けました。ここで私は、いっそのこと、自社で販売を手掛けるようにしたらどうかと申し上げたのです。
 経営者が戸惑うのは仕方ありません。やはり、今まで技術とものづくりを重視してきた社員が、いきなり営業など出来る訳が無いと思い込んでしまったのでしょう。そんなことは出来ない、そう顔に書いてあります。そこで、私は可逆性の話をしたのです。技術者でも、あえて技術のことを言わないようにして、腰を低く、ニコニコして営業すれば、何とかなるでしょう。逆に、営業マンに技術者になれと言っても、それは無理でしょう、と申し上げたのです。

 メーカーは、ものづくりですから、理科系の人が多いのは当り前です。対して、販社や企画会社、或いは流通小売、金融サービスなどの業種においては、文科系社員の比率が多いのも、これまた当然です。しかし、ここでメーカーが販社機能を備え、ものづくりから販売までを一貫して行うことは可能ですが、逆に、販社がメーカーになるのは大変なことなのです。
 このように、事業にも可逆性と不可逆性があり、それを意識すると、新分野へ進出したり、技術を横展開して異業種に出ようとする時に、結構、選択肢が広がるということをお伝えしたいのです。
 勿論、この様な条件が全てに当てはまると言っている訳ではありません。文科系の人も、優れた技術や技術的な知見をお持ちの方が多いのも知っています。しかし、やはり、可逆、不可逆という視点で見ると、それなりの条件があるということなのです。

 如何でしょうか、ものづくりで伸びてきた我が国の経済構造、今、その商品の持つ技術的な競争力を、ちょっと文科系的な視点で見直してみるのも大切です。
 自分は理科系なのだから、文科系の考え方など分からん。そう言わずに、新しいビジネスモデルを、文科系の視点で考えるのも良いのではないでしょうか。事業の可逆性と不可逆性、そうして見ると、新しいビジネスモデルが見えてくるのです。

 ところでお前は何系か、ですって? う~ん、ビジネス系と申し上げておきましょう。