【Vol.196】内向きパワー98%

 ときどき、大会社の社員でなくて良かったと思うことがあります。皮肉でも何でもありません、本当にそう思うことがあるのです。どんな時かというと、ご担当はその気になっているのに、悩ましい顔で、「社内でどうやって説明しようか」と悩んでおられるのを見るときです。開発を進める中で、当り前ですが、ご担当は十分な調査を行い、アイデアを出し、企画を進めて行くものです。誰もが前向きで、夢と希望を持って開発を進めて行くのです。その開発がまとまり、いざ本番にしようと、社内でのコンセンサスを得ようとする段になると、決まって多くの大会社で、この悩みが自然発生的に沸き起こるようです。

 いつも言うように、開発とは、開発した新事業や新商品が、如何にお客様に受け入れて頂けるかが一番の問題です。お客様にとっては、開発の経緯や社内の事情など、そんなことはどうでもいいことです。お客様が一番気にしていること、それはタダ一点、自分が気に入るかどうか、それだけなのです。それなのに、開発に携わっていない者に対して説明をするとき、本当はお客様に向けなければいけないパワーを、内向きに、しかも持てるパワーの殆どを費やすような作業をしなければいけないなんて、何と非効率なことでしょう。

 勿論、開発に携わる者だけでは間違うこともあるでしょう、それは認めます。申し上げたいのは、その開発の本質的な問題点を云々するのではなく、社内での手順や手続的な、本来の開発とは無関係な説明作業が煩わし過ぎるのが問題なのです。
 「どんな表現なら、あの部長に理解してもらえるか」、「提出する企画書の形式をどうするか」、「誰から言うのがお気に入りか」、「真正面から行くと必ずノーだから、ドサクサ紛れで行こう」、「もう少し待ってからの方がいい。今、娘さんが受験中だから…」、理由は色々あるようですが、一体、何でこんなことで開発が遅くなるのでしょうか。

 何回も言いますが、お客様はそんなことはどうでもいいのです。開発で一番大切なことを分かっている人に、何故、一直線に話しが出来ないのでしょうか。そう言うと、答えは決まっています。「分かる人に直接言うと、その間にいる人がヘソを曲げるのですよ。だから、仕方が無いのです」。ならば、分かる人が直接の上司になればいいじゃありませんか。

 大会社は不思議なところです。本質を理解する人は必ずいます。が、それは少数で、殆どが手順や手続きを問題にする、「管理大好き」な社員が大多数なのです。そんな人が開発部隊の上司にいると、それはもう悲惨な状況です。そんな上司に向けて、開発部隊が投入するパワーが98%、私が見るところ大袈裟ではない数字です。
 しかし、皆さん、これって、逆に考えると凄いことだと思いませんか。だって、持てるパワーの98%を内向きに消費(浪費かも)しても、多くの会社から新事業や新商品が生み出されている現状は、正に氷山の一角ではないかと思うからです。しかも、訳の分からぬ上司を、上手く誘導しながら進めていく忍耐力と戦略的志向、そう思えば何と素晴らしいことではありませんか。さあ皆さん、これからも開発は進みますよ。ちょっと遅いだけですがね。
 なんだ、それならそれでいいじゃないか、お前もそんなに大会社の担当者に気遣うことはないし、大会社の社員になれるならなったらいいじゃないかって? そうなんですが、やはりムリです。私、お客様しか見ていないのですから。