【Vol.193】原価の情勢

 いやあ、NHKもやるもんだと思いました。朝のニュースを見ていたら、大手航空会社が燃料高騰の影響で、大阪から地方への定期便を減便もしくは廃止する旨の記者会見、それを取り上げての放送です。最近のテレビは、出演者のコメントを音声だけではなく、画面下方にテロップでも流すのですが、そのテロップを見て思わず唸ってしまったのです。大手航空会社社長のコメントは、「燃料高騰の影響は、もはや経営努力の限界を超え…、そのようなことですので…、現下の情勢をご理解頂き…」というものでしたが、NHKのニュースの画面テロップには、「“原価”の情勢をご理解頂き…」と書かれていたのです。

 燃料高騰による経営努力の限界を超えて、もはや打つ手はありませんと言う社長の心情を、あえて、現下を原価に言い換えて表示するという、シャレを通り越してのウルトラC、何と分かりやすい表現でしょう、正にドンピシャの大ヒットテロップです。以前、私はクローズアップ現代に出演させて頂いたことがあり、NHKの方々に知人も多いのですが、皆さん大変優秀な方々です。漢字など間違う筈はないNHKのテロップが、現下ではなく原価。これって、正に現下の言い回し(私の場合はシャレです)、ではありませんか。
 真面目な話、今、これだけ原油が高騰してだれも止められない状況下、もう、打つ手は無いのが本音です。そんな時、報道の立場を代表するNHKとしては、商品価格に転嫁したい企業姿勢を積極的に後押しすることなどは出来はしませんし、あり得ません。しかし、これだけ異常な高騰を目の当たりにして、何が何でも物価の上昇はまかりならぬと言い続けるのなら、もう報道の中立性は勿論のこと、その見識を疑いたくなるところでした。そのNHKが“原価”の情勢を理解しよう…、とやってくれたのです。

 違うよ、タダの間違いよ、と言われるかも知れません。しかし、例え間違いでも、この書き間違いは大ヒットではないでしょうか。繰り返しますが、これだけ原油が高騰して、そのアオリが食料由来のバイオ燃料にまで波及して、その挙句、何でもかんでも高騰している現状を、企業努力だけで乗り切れるものと、一体、誰が信じているのでしょうか。異常なときは異常、非常時には非常である、それをしっかりと言うのが報道の基本であるのに、多くは建前が優先し、“…でなければならない”式が今の主流であることは残念です。
 以前、このBP通信(160号)にも書きましたが、会津藩士の「什の掟」(じゅうのおきて)に書かれている、ならぬものはならぬものです、とキッパリとした物言いが、今、もっとも大切なことではないのでしょうか。誰もハッキリとは言わないが、誰でも分かっている、誰が悪いのかということ、それは、唯々(ただただ)油が高い、投機筋が悪いのです。

 さあ皆さん、声を大にして言いましょう。飛行機の地方路線を減らすのも閉ざすのも、みんな油が悪いのよ、高い油が悪いのよ、航空会社は辛いのよ、地方の飛行場も辛いのよ、そ~れもこれも、み~んな油が悪いのよ、現下の情勢理解して、原価の情勢許してね。
 さあ、少しはスッキリしまたか。私はしましたよ、だって、これからは少々嫌なことがあっても、全部、原価のせいにすればよいのですからね。ははは。