【Vol.192】付加価値の意味

 仕事がら、企画書を拝見する機会が多くあります。新事業や新商品開発の内容について、コメントを求められたり、アイデアを追加したりするのです。
 先日も、新事業の企画書を拝見しました。企画書に書かれた事業について、実現の可能性はどうか、コメントするのが、私の仕事です。しかし、企画書に書かれた内容を拝見した後、タイトルがちょっと気になりました。企画書の表紙に「○○の開発 高付加価値を提供する新○○製法」と、大きく書いてあったのです。どこが気になったかというと、「高付加価値」と書かれていたことです。

 企画書の内容については、守秘義務があるので詳細は書けませんが、要は、土木や建築資材関連製品を、廃棄物からリサイクルした材料を使用して作るというものです。リサイクル材料を使うから、その分、従来製品よりも安くなるという内容なのです。表紙のタイトルには、高付加価値と書いてあるのですから、今までとは違う新しい性能や機能、即ち、新しい価値が付加されているものと考えたのですが、如何に安くなるかの説明です。それでは、このタイトルと内容は全然違うのではないかと気になったのです。
 言い回しや言葉尻を問題にしているのではありません。そもそも、高付加価値とは、企業が努力して新しい価値を創造し、その分、従来より価値が上乗せして高くなることだと思うのですが、この製品は、コストダウンの方法を考えたから、安くなったということなのです。今まで捨てていた材料を使ったから原材料費が安くなり、結果、製品の製造原価が安くなり、販売価格も安くすることが可能になった。このことについては結構なことですが、それは、単に原価低減を果たしたということで、価値を創造したことではありません。安くすることは悪いことではありませんが、それならば、「低コスト化のご提案」と書くか、或いは「コスト競争力の強化方法」と書けばよいのです。そんなこと、どうでもいいだろうと言う方も多いでしょうが、これ、私には大問題なんです。

 いつも言いますが、これまで我が国は、品質・コスト・スピードという競争力で戦い、発展して来た歴史があります。しかし、残念ながらそれらの競争力は急速に失われ、特にコスト競争では負けることが多くなりました。ならば、もっと安くして買ってもらおうと、コスト低減に励みましたが、それも、もう限界です。
 そんな状況から、多くの企業はもがき苦しみながらも、顧客のニーズに応える為に新しい価値を創造したのです。それが、安全・環境・コンプライアンスです。製品や商品の安全性や安心感と、環境に配慮しているかどうか、そして、コンプライアンスを尊重しているか、それが、今のお客様にとって一番大切なことなのです。そして、その重要性に気付いた企業が高い評価を受けているのに対し、逆に、それらを蔑ろにしている企業が苦戦しているのが現状です。
 足し算、引き算で考えれば分かりやすく、コストを低減するのは引き算です。販売価格が同じなら、原価を安くすれば従来よりは差益が出ます。しかし、それは製品の価値が上がったのではなく、原価を下げた引き算の結果です。他社製品がこちらより安いから、それよりも安くしようというマイナス志向では、価値の創造などできる筈はありません。
 付加価値と言うのなら、新しい価値をプラスしなければいけません。要は、プラスすることが大切なのです。付加価値とは、文字通り、価値を付加することなのです。
 繰り返しますが、言い回しや言葉尻にケチをつけているのではありません。本当に、付加価値で利益を上げてほしいのです。