【Vol.166】ロンドンタクシー

 ロンドンタクシーってご存知ですか。そう、あのイギリスはロンドンで走っているタクシーです。ロンドンの街並みによく似合う、古風な観音開きのドアでも有名ですが、何と、そのタクシーがこの国でも走っているのです。しつこいようですが、タクシーとしてですよ。
 初めて、そのタクシーに乗ったのは、会津若松の飲食街でした。女性ドライバー(このタクシー会社が運行しているロンドンタクシーは7台あるのですが、ドライバーは全員が女性なんです)が車の横に立っていて(その夜はとても寒かったのに)、身じろぎもしないで客待ちをしていました。後で聞いたのですが、ちゃんと行灯(車の上についている表示)も点灯しているのですが、何せロンドンタクシーですから、本当のタクシーとは思われない(変な話です)ことが多いようで、きちんとした制服でご案内しているのだそうです。

 乗り心地ですか? 何てたって本物ですから、あのイギリスのロンドンタクシーと同じで、少々足回りは硬めですが、見た目より広い車内は快適そのものです。品格があるように思うのは、英国紳士の伝統が受け継がれているそのデザインから来るチカラかもしれません。と、同時にドライバーさんの品の良さが印象的でした。
 あんまり嬉しかったので、お付き合いしているお役所の方に仲立ちして頂き、経営者にお会いすることができ、色々伺いました。実は、それがドラマそのものだったのです。

 この会社は会津若松では一番後発のタクシー会社で、古参企業の地盤はとても強いのだそうです。タクシーは許認可事業ですから、乗り入れ地域なども後発には厳しく、私が最初に乗った時の飲食街でも、最初はずいぶん苦労されたようです。
 そのような状況の中で、何か違うコトをしたいと思った矢先に出会ったのが、たまたまご近所にあったロンドンタクシーの中古車だったのです。所有者が持て余していた(マイカーとしては目立ち過ぎます)こともあり、譲ってもらった車体に手を加えて、本物のロンドンタクシーが誕生したという訳です。
 本来のタクシーとしてのお客様は勿論ですが、特に喜んでもらえるのが観光タクシーとしてのお客さんで、乗り付けると他の観光客の目が釘付けになってしまうのがちょっとした快感なのでしょう、観光地をロンドンタクシーで巡る旅は評判になり、口コミでお客様が増えているようです。

 さて、申し上げたいのはロンドンタクシーの姿カタチではありません。女性ドライバーさんの「おもてなし」の素晴らしさなのです。全員に会ったわけではありませんが、とにかく応対の素晴らしさがとても印象に残るのです。ベタベタせず、と言ってアッサリ過ぎるわけでもない、その居心地のよい空間を提供する技術。そこが素晴らしいのです。
 このお話を社長にしたところ、こんなご返事でした。「いじめられたからなんです。あちこち行くところ行くところでいじめられ、最初は反発もあったけど、結局、お客様に喜んでもらえることが一番の戦略。皆でそう決めたのです」。

 皆さん、如何でしょうか。
いじめられたら、「目には目を歯には歯を」とやりたいところですが、そうではなく、お客様の為になることが一番の戦略という考え方。素晴らしいおもてなしタクシーができた理由は明快でした。

 会津若松で走っている上品なタクシー。一度お乗りになってくださいな。