【Vol.162】ポスドクセミナーに想うこと

 話を聞いたとき、本当にビックリしましたよ。だって、この国には一万人の若い博士や修士が大学の中で漂流しているというのです。漂流とはチョッと過激な表現ですが、それに近い話です。詳しく説明しましょう。

 1990年代以降、文科省は「大学院重点化施策」をスタートさせました。東大をはじめ旧帝大など10数大学が呼応して、結果、一万人の博士や修士が誕生したのです。しかし、現実は厳しく、イザこれからという時になって、大学内には彼らのポストが無かったのです。
 理由は簡単です。国公立大学が「大学法人」として独立行政法人化されるや、合理化や整理統合が急速に進み、一般企業並みにタイトな雇用状況になったのです。子供の頃、「末は博士か大臣か」と言われたくらいの大きな夢を実現しようというときです。それなのに、もう一歩というところでにポストが無い…。これって、詐欺とは言いませんが、おだてて屋根に登らせてハシゴを外したのと同じではないでしょうか。ホントに悲しいお話です

 でもご安心を。国も知らん顔をしている訳は無く、今度は如何にそのような方々を社会に送り出すか、その手助けをしよういうことになりました。
 新たなプロジェクト、「科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業」をスタートさせたのです。またハシゴを掛け直して、着地点を探しましょうということです。

 ここで、私に声が掛かったのです。そのプロジェクトを手伝えというのです。正直、妙な気持ちでした。だって、私、大学中退ですし、国公立大学でもないし、それなのに博士様(皮肉なんかじゃありませんよ)に何を言えっていうのでしょうか。
 落ち着いて考え、多分、こんなことかと思いました。
 …多喜は大学も出ていないのに、ビジネスの世界に棲んでいる。しかも、クライアント先にコンサルティングをしているのだから、ビジネスの話をさせて、ビジネス界に不安を抱くポスドク生にその気になってもらえるのでないだろうか…。
 このシナリオなら出来ます、いや、得意中の得意ですよね、私、ビジネス・プロデューサーですから。で、ポスドク・セミナーを引き受けたのです。

 引き受けたのは良いのですが、またビックリです。何がビックリしたかって、皆さん、やはり(当たり前と言えば当たり前です。博士ですから)とっても優秀なんです。先入観として、「頭でっかちで、理屈っぽく、融通がきかない」と思っていたのですが、そのような方は少なく、むしろ積極的で、ユーモアのセンスもバッチリです。いつものビジネス・プロデューサー要請講座のショートコースなんですが、成果としても大きなものがあり、やはり、普通の学生とは大違いなんですね、これが。

 終了して、あらためて考えました。このような優秀な人たちが1万人。1万人の優秀な頭脳が、活躍の場を探している。1万人ですよ、皆さん、これを損失と言わずに何と言うのでしょうか。
 そこで私は決めました。私たちのSIでインターンシップ生として引き受けようと決めたのです。そして、クライアント先に同行し、双方が気に入った企業に就職するというプログラムを始めることにしたのです。当然、私たちで出来ることには限りがあります。でも、1万人の優秀な学生がいるという事実を知ってもらう活動の第一歩は、確実に始まります。

 如何でしょうか皆さん。今年の就職戦線は(一般)学生の「売り手市場」だそうです。ですが、ポスドク生が1万人もいるという事実。これこそ、わが国の知的資源の最たるものではありませんか。
 「もったいない」は、人材という意味でも同じなんです。