【Vol.158】定年後の創業

 初めてお会いした時、てっきり二代目さんかなと思いました。会社はしっかりとしているし、業容も万全。全国的な営業ネットワークを有して、ビジネスモデルも言うことなし。いつも私の言う「堅調企業」の典型です。これはもう、先代が築き上げた土台があって今がある。そう思って当然です。
ところが、創業12年目、しかも創業したのが定年後と聞いて、ビックリを通り越しておったまげました。

 大企業を定年まで勤め上げ、それまでご自身の気持ちの中にしまっておいた、自分の会社を持ちたい一心で…。そう言われても、簡単に「ハイ、そうでしょう」とは言えません。
しかも、創業に反対する奥さんに、どうしてもダメなら別れてくれと、退職金を殆ど渡してしまったというのですから、もう、何も言葉がありません。
下のお子さんが未だ社会人にはなっていなかったので、養育費は必要だからと渡した退職金の残りを軍資金に、先ずは全国の知人を訪ね歩き、現在の事業の根幹ともなるニーズを確認し、これなら行けると決めて創業したそうです。試作から生産、発送まで、最初のうちは殆ど全てを一人でやったそうで、元々、営業マンだったからでしょうか、ニーズをしっかりと掴む情報収集力が成功の元かも知れません。でも、成功要因はニーズの掘り起こしと、一言で済ませてしまう訳にはいきません。他の何かがある筈です。

 答えは「夢」。きっと夢を実現する為に創業したのです。
 お話をしていると、気が付くのですが、この方は決して大風呂敷を広げるようなことはありません。いつも出来る範囲のことをコツコツと進めて行くタイプです。そして、何より感じるのは、本当に楽しそうに話すのです。
開発の話をしている時は勿論、業務のことで社員の方々と話している時もそう、いつも楽しそうなんです。きっと、楽しく仕事をしたいという夢のために創業したのではないのでしょうか。そう思うのです。
 なぜ、夢の為かと思ったのか、それは決してリスクを負っていないと感じたからです。

考えてみると、夢とは儚(はかな)いものです。逆の見方をすれば現実的ではないこと、或いは実現すること自体が難しいことでもあります。そのような夢のために、全てを捧げるようなリスクを負っていては危険ですし、第一、楽しくありません。楽しそうに話されるのを見ると、楽しく仕事をしたいという夢のために、リスクを負わず、肩の力を抜いたような状態の経営を続けておられるのだと思うのです。
リスクを負わないのだから力(りき)まないのか、力まないからリスクが排除されて成功したのか、いずれにしても結果は同じです。要は、楽しく仕事をしたいという夢を持つことで経営が上手く行くのなら、楽しくすることが一番です。
 私もよく言うのですが、楽しくない仕事は上手く行きません。だって、どこかにムリがあるからです。裏返せば、ムリを通すということ自体がリスクなんです。

 皆さん如何でしょうか。これから本格的に始まる高齢化。定年後に創業しようとする方も増えるでしょう。そこで、勘所です。自分の夢は何なのか。それをよ~く考えることが成功の秘訣かも知れませんネ。

 さあさあ、私ももうすぐ定年です。どんな夢を見ようかなぁ…。
 これを読んだ家内が言いました。「定年なんてありませんよ」ですって、とほほ…。