【Vol.155】際限

 開発をしていて嫌なこと、それは「ずっとずっと売れるものを作りましょう!」と言われることです。あり得ないですよ、そんなこと。でも言ってしまう人、いるのです。いくら最初はヒットしても、何時までもいつまでも、それこそ際限もなく売れ続ける同一の商品や事業があるのでしょうか…。
今回は際限について考えました。

 際限とは、最後のところです。きり、限り、果てでもあります。際限が無いというのは終わりがないことで、意味を知ると、何か不安な感じさえします。でも、物事には終わりがあるのは当り前で、それを自然に受け入れれば平穏なことです。不安なのか平穏なのか禅問答みたいですが、開発者は事業や商品の寿命には限りがあることを肝に銘じておかないといけません。

 初めから「短命ですよ」と言ってはシャレになりませんが、ある程度の寿命を見切っておくことは大切です。予想以上に寿命が長ければ、それはおまけのようなもので、嬉しいことではありますが、そんなに誉めたものではありません。寿命の予想が外れたこと自体が問題です。外れたのは、顧客のニーズの寿命を計り外したということで、「まぐれ当たり」と同じです。

 よく見ていると、大ヒット商品はなくても、コンスタントにヒット商品を出し続けている企業は少なくありません。共通して、目立ちはしませんが堅実経営です。丁度、ホームランバッターではないが、着実に打率を稼ぐイチローみたいな企業です。そのイチローも、打率が下がってきた時には「こういう時もありますよ」と平然としています。きっと、彼にはしっかりとした時間軸での目標があり、中・長期的な戦略があるのです。そして、シーズン毎に決めた目標が達成できない、あるいはその意欲が無くなったと感じた時が、野球人生の終わりと決めているのではないでしょうか。それが、多分、彼の際限の決め方です。

 言い換えれば、際限とは、何かの目標値を決め、それが達成できる期間、或いは出来そうな期間を言うのかも知れません。そうならば、達成できないと判った時には潔く終るしかありません。考えれば、人間の寿命も、それが長ければ長いほど良いとは思いつつ、際限なく何百歳までも生きることなどありません。逆に言えば、誰でも自分の寿命を見極めることはできるのです。
 いつか、開発は人生と同じだと申しました。生まれて学び、活躍して、いつしか終わる。商品や事業にも寿命があるのです。そう思えば、開発とは際限を見極めることでもあるのです。ですから、予め事業の際限を知っていれば、次の手を早めに打つことも出来きるのです。
 そうすれば、ひょっとして、際限の無い事業が続けられるのかも知れませんね。

追伸:この原稿を見た家内が言いました。「夫婦の際限はいつ来るの?」。
   何か、嬉しそうなのが気になりました。とほほ…。