【Vol.154】最初の客になれるのか

 よくある話なんですが、作った商品が売れなくて困ると言われることがあるのです。で、このようなとき、私はいつも同じことを言うのです。「あなたは自分で買いたいと思ったのですか」と。
大概、「商品は持っています」と言うのですが、自社で開発した商品ですからタダで貰ったもので、自分のお金で買ったと言う人は少ないのです。

 おかしいとは思いませんか、自分が欲しいと思わないものを作っても売れる訳はありません。まして、赤の他人が欲しい理由なんてどこにもありません。でも、こんな簡単なことですが、ここに大きな問題点が横たわっています。自分が最初の客として買うのか買わないのか、それは、開発者自身に顧客の視点があるのかないのかという、本質的な問題なのです。

 言うまでもなく、開発とはニーズに応えるためのものです。先ずニーズが明確になって、そこに顧客が居て、明らかに買って頂けるという確認があって、初めて商品開発が進みます。誰が買うのかわからないのに作ってしまうというのは、大変、乱暴な話だと思うのです。実は、「あなたは自分で買いたいと思うのか」という質問は、開発者自身も生活者であり顧客であることの確認をしたいからで、「あなた自身が生活者であり顧客である視点を持っているか」、そこを聞いているだけなのです。

 開発のお手伝いをしていると、この問題は日常的なことでもあります。そのとき、私はいつも自問自答しています。「自分は欲しいか」。
そうすると直ぐに答えは出てきます。本当に欲しければ「やりましょう」と言うし、欲しくなければ「やめましょう」と言うだけです。
 クライアントへの遠慮は禁物です。いや、むしろしてはいけません。売れないのが判っているものを作るお手伝いをすること自体、コンサルタントとしては失格ですし、それより、大切な「生活者・顧客の視点」を放棄することになるからです。それは、開発コンサルタントとして、最も基本的なセンサーである「顧客志向アンテナ」を放棄することと同じなのです。
 開発とは、開発予算があるから行なうのではありません。何回も言いますが、先ずニーズがあり、そこに顧客がいて、その顧客が「買うよ」と言ってくれたものを作るのが開発です。それも、より多くの顧客が「一番先に買いたい」と言ってくれたなら、成功は間違いありません。
 ですから、プロの開発コンサルタントである私は、如何に広い視点で生活者になりきるかに腐心しています。例えば、毎日飲みに出かけるのも楽ではありませんが、焼き鳥屋から高級レストランまで、くまなく回るのは仕事なんですネ。それも、開店直後、最初の客で入るのがたまらないのです。

 どうか皆さん、飲み屋で私を見かけたら、ああ仕事なんだなと思ってやってくださいまし。そして、早い時間から飲んでいたら、「最初の客」なんだと思ってください。
 ちゃんと意味があるんです。