【Vol.144】自由度が一番

 大学でお話する事が多くなりました。企業の社内研修会やセミナーと違って相手が学生ですから若くて初々しく、こちらも若返ったようで気に入っています。でも、今時の学生は情報化社会なのでしょうか、ハウツー的な話にあまり興味が無いようです。既に知っていることや面白くない話となるとあっさりと寝てしまうようです。幸い、私はそのような経験は無いのですが、聞くところによると「爆睡」するそうです。
 話す際に私が心掛けているのは、本や教科書には書いていないコト、即ち、できるだけ自身の経験談や本質的なものの見方考え方などを分かりやすい表現で語るようにしています。

 ある大学の企画講座の初日です。元々、企画からカリキュラムの構成、そして講師の選定や運営までをお手伝いした、その講座の第一回目の講義です。企画講座のテーマは「起業」ですから、第一回目の講義はビジネスの基本をお話することにしました。
・・・ビジネスの基本。色々なご意見や知見があるかと思いますが、私が話したいことは最も基本的なことで、なぜ私たちは仕事(ビジネス)をするのか、その目的を明確にしたいと思ったのです。ビジネスにおける最も根本的な目的とは何か、それをしっかりと決めておかなければ、経営戦略も決まらず、まして日々の戦術や業務の企画など、できる訳はありません。ですから、「なぜ私たちは仕事をするのか」が重要なのです。

 先ず、学生に質問します。「一体、君たちは何のために仕事をするのかね」。私の質問に、「それはお金の為に決まっています」。元気の良い答えが返ってきます。「では、君が欲しいお金、例えば月給で言えばいくらだい?」。これも元気良く、(大体が先輩から聞いた初任給にプラスした金額を言います)「25万円!」。「そうか25万円。それで満足なんだね」。「とんでもない。段々あがっていきます」。「では君がずうっと満足できる金額はいくらかね?」と聞いたところで、学生の目がうつろになり、やれ一億円だの、100億だのと無茶な話になって行きます。
そして、そのあたりでやっと気付くのです。つまり、仕事の目的はお金の高では決められないという事なんです。

 多分、初めての質問でしょうから、仕方ありません。皆の思考がエアポケット状態になっています。意見が出尽くしたところで徐(おもむろ)に、「自由度だよ」。そう言うと、今度は皆の目が点になっています。
 解説です。私は仕事をする目的は、如何にして自由度を上げるかに尽きると思っています。自身のスキルや会社のビジネスモデルが行き詰まり、そのままでは対応できなくなった時、サッと新しい仕事やビジネスに転出できれば、当り前ですがそれが一番良い事です。そして、その為には普段から様々なスキルや経営資源の開発に努めていなければいけません。
つまり、自動車で言えば「走る・曲がる・止まる」という操作性の自由度、つまり性能を常に向上させるのが大切だということです。自動車の基本的な性能が悪ければ行きたいところにも行けませんし、最悪の場合は事故を起こしてしまいます。それと同じで、ビジネスとは会社という自動車が社員という運転者によって様々な傷害や困難を乗り越え、より安全な方向に進むことなのです。それは、より高い自由度を持てば持つほど経営の選択肢が増えることであり、倒産するような事態を回避できるチカラがつくことです。

 如何ですか。自由度を上げてより良い方向に進む。
 それは、私たちの人生の歩みと同じです。