【Vol.142】バッタ屋の手口

 バッタ屋という商売があります。正規のルートを通さずに入手した商品を極端に安く売る商売です。
過剰在庫の処分品とか、倒産の差押え品などを現金で買い叩く、いずれにしても、流通の過程で誰かが泣いている商売です。誰かが泣くような商売は、逆に言えば誰かが無理をしたり、しわ寄せ分を吸収しなければならず、大抵は品質を落としてコストを吸収するので、バッタ品は粗悪品が多いものです。しかも蛇の道は蛇。同じ事をしたい人たちが集まるのも特徴で、その分、騙される人も多くなります。売り手もいれば買い手もいて、「安かろう悪かろう」と、そこのところを自覚して買う客もいますが、大概は「安物買いの銭失い」となるようです。

 最近、このようなバッタ屋の事件がありました。その事件、私にはバッタ屋の手口と同じに見えたのです。
 建物の構造計算を偽造した一級建築士がいて、それこそ肝心要の鉄筋を間引きして、結果、大幅なコストダウンに成功(?)し、それに群がって儲けた人たちの話です。
 最初は、その建築士が悪者でしたが、後から出るわ出るわ、バッタ屋がゾロゾロと炙(あぶ)り出されてきましたね。皆、「コストダウンとは言ったが、違法行為をしろとは言わなかった」と、同じような弁明をしています。コストが安くないと、採算が合わないと言いますが、その採算をバッタ屋の手口で得ようとしたのですから、違法行為を知らない訳はありません。
買った方にも責任はあり、なぜそんな安いのか、ちゃんとチェックしなければいけません。せっかく作ったマンションやホテルが、少々の地震で倒れるような強度しかなかったんですから、法律を無視した極端に安い商品を、バッタ屋から安いと言われて、バッタ品を買ったというしかありません。

 さて、一番悪いのは誰でしょう。建築士も悪いのですが、一番悪いのはコストダウンを嗾(けしか)けた者ではないでしょうか。あえて「嗾けた」と言わせてもらうのは、嗾けて、つまり扇動するようなことでコストダウンを押し付けて、自らの利益を捻出させた者が、一番悪いと思うからです。鉄筋を抜いてまでコストを切り詰めさせ、自分だけが儲かる仕組みを作る者は、相手の弱気に付け込んで儲けるバッタ屋の手口です。
 皆さんはどう思われますか。
 コストダウンが必要なのは分かりますが、そのコストダウンのやり方がバッタ屋と同じになってしまったら、それこそ本末転倒です。この事件は、私たちが日常的に向き合っているコストダウンへの努力の裏に潜む、悪魔の囁きかも知れません。

 さてと、原稿も書き上げたし今夜も行きますか。安い飲み屋さんはどこかな~っと。
 えっ、バッタ屋みたいなところに呑みに行くんじゃあないかって? 
 そう言えば、昔、カストリってのがありましたよね。(古い?!)

※カストリとは、米または芋から急造した粗悪な密造酒なんですって。勿論、私は飲んだことはありませんよ。ホントです、ホントに。