【Vol.134】クンと呼ばれる喜び

 嬉しいことは色々あります。開発が順調に進んで商品が完成した時も嬉しいし、クライアントの新しい事業が好調な時も嬉しい。私の会社が明るければ嬉しいし、家に帰って家内のご機嫌がよろしければ、又、嬉しい。娘がちゃんと勉強をしていると聞けば、例え通信簿が悪くても(我が子だからしようがないと思いながら)嬉しい。てな訳で、とにかく嬉しいことがいっぱいです。でも、嬉しいランキングで上位にあるのは多喜クンと、君付けで呼ばれることです。

 先日、久し振りにご一緒した社長とは、もう35年のお付き合いです。最長の顧問契約先でもあります。35年前の私は、当り前ですが若かったのですヨ。開発した緊急遮断弁が好評で、ヒット商品になる予感が日増しに強くなっているときでした。「多喜クン、売れるといいな。頑張ろう…」。いつもそう言って頂いて、その通りになって行きました。そんな、思い出深い時代からお世話になっている社長です。
 飲むほどに酔うほどに、「なあ、多喜クン・・・」。いつもの調子で話し掛けて頂けます。
実は、その会社では、昔からお世話になった方でも、今は私のことを「多喜先生」と呼んでいます。昔はクン付けだったのに、いつの頃からか先生になっています。私にとって、このクンか先生かは大事なことで、ずっとクンで呼ばれたいのが本音です。なぜかと言えば、クンで呼ばれる関係でずうっといたいからです。

 実は、コンサルタントとか顧問業は、偉そうにしているのが仕事のようなもので、そうしていれば案外楽な仕事です。誤解を恐れずに申し上げれば、そうすることで権威付けが出来ますし、実力以上の威圧感みたいなものをクライアントに示すことが出来るからです。もっと言えば、虎の威をかる狐のようにしていれば、へへーッと謙(へりくだ)る人がいるからかも知れません。
 私はそうなりたくはありません。開発をしている間は、そうなりたくはないのです。

 開発とは、クライアントの社員の方々との共同作業です。どこから来ようが、どこに行こうが、開発をしている人間同士は、皆、仲間です。仲間だから、上下の関係などはありません。謙ったり譲ることはあり得ません。お互いに尊敬し合ってフラットな間柄では、当然、呼び方はクンになります。

 社長が私を多喜クンと呼ばれるのは、今も仲間であると思っておられる証です。
 これからも、いつまでも、そう呼んで頂ければ、最高の喜びです。