【Vol.131】定点観測の進め

 変な性分かも知れませんが、定期的にご訪問するクライアントが決まると、宿泊するホテルやチョッと一杯頂くお店は、必ず一店にして通い続けます。多少の不便や、たまに気に入らないことがあっても、他のお店には目もくれず通い続けるのです。

 理由は二つあって、一つには顔を覚えてもらうためです。いくら定期的に通うといっても、せいぜい月に一回ですから、こちらの顔を覚えていただくには多少の時間はかかりますし、たいがい一人で行って黙って飲むのですから、馴染みになる為にはとにかく一店集中するしかありません。
 もう一つの理由、実はこれが大切なんですが、「定点観測」なんです。何かの目的の為に定点観測を始めたのではなく、通いつづけていると、結果として、定点観測している状態になることに気付いてから、そのように意識しているのです。

 定点観測状態になると、色んな事が見えてきます。例えば、飲み屋さんの場合、お客様の景気動向(ふところ事情と言った方が良いのかも知れません)が如実に分かります。急に景気の良くなった客は、やはり飲み方が派手になります。そのせいでしょうか、いわゆる「同伴」でキレイどころを従えて悦に入ったお父さんやおじさんを見ると、微笑ましい感じもするくらいです。
しかし、私にとって一番大事な情報は、その地域の全体的な出来事情報です。その情報とは、政治、経済、地域企業、或いは県民(都道府県)感情など、あらゆる分野にわたる、そこの地域の出来事情報です。

 面白いもので、飲み屋さんでの会話というのは何であんなに大声になるのでしょうか。じっと聞いている者が居るとは思わないのでしょうが、それにしても大きな声です。ですから、聞く気になると、実にハッキリと聞こえるのです。「あそこの会社の誰それが、ああしてこうしてどうなった…」。本当に、その会社に行って見てきたように詳細な情報が、それこそ手に取るように分かります。そんな風に、急に景気が良くなった客の、良くなった理由が分かったりします。

 念のために申し上げますが、飲み屋さんでスパイをしているのではありませんよ。お店での常連客が変わっていくのが面白いのです。そして、その変化の理由が分かってくると、良い事なら参考にさせてもらいますし、逆にダメな事なら、これは失敗事例として肝に銘じておくのです。単なる季節変動もありますし、構造的な要因もあります。その辺が分かると本当に面白いのです。

 本質を知ることは、様々な事例を知ることから始まります。その知識や経験を比較したり検討したりする中で、本質が炙り出されてくると思うのです。そのためには、こちらが動いてはいけません。定点観測とは、相手の変化や動きを見るために、自分は動かないことなのです。
 一店に決めた飲み屋さんに通い続けての観察は、本当に貴重な情報源です。
 お酒が入った大声の中に、本音と事実があります。
 そこに、本質の芽が含まれているのです。

 ね、皆さん、飲み屋さんに通うのにもちゃんとした理論武装が必要なんですヨ。
 今度はご一緒に如何ですか。ははは。