【Vol.126】『権』の有る無し

 言葉の定義は大切だとつくづく思うことがありました。しかも、知財のことです。
 それは、知財について専門家に語っていただくセミナーの、終った後での懇親会の立ち話でした。「知的財産と知的財産権とでは全然違うんだよね」。参加者(受講者)の大企業の知財部長が仰います。「えっ?」と、他社の参加者が聞き返します。説明が始まりました。

「知財、知財って簡単に言うけれど、『権』が付くと付かないのでは、全然、意味が違うんですよ」。
「知的財産というのは、ノウハウや技術、或いは知識など、要は会社の中にある、もっと言えば社員の頭の中にある、知っている知恵の全てを言うのです」。
それに対して、
「知的財産権はどう違うのですか?」。
「それそれ、そこの違いをハッキリしておけばいいんです。ようするに、知的財産権というのは、権利化しているかどうかが問題で、権利を持つことで事業や物を作るときの支配権を得るかどうかのことなんです」。
「だから、もし権利を持てなければ支配権も無いのだから、競争力は弱くなります」。
「じゃあ、権利が付かない知的財産は意味が無いって言うことですか?」。
「イヤイヤ、逆に強いこともある。頭の中にある知恵なんだから、言わなければ分からないですよね。人の頭の中は覗けないんだから、黙っていれば、凄い競争力に繋がることもあるのです」。
「そうか、じゃあ逆に権利化してオープンにしない方がイイ場合もある」。
「そうなんです、そこが分かってくると、出願するかしないか、或いは全部ではなく部分的に出願するとか…、それが戦略なんですよ」。
「そうか、それが戦略なんだ…」。

 まあ、理解が深まってメデタシ、メデタシといったところですが、横で聞いていてちょっと思ったことがありました。お二人の話の内容は、今まで自分が理解していたことの通りでしたから、その意味では違和感はありませんでしたが、むしろこのことを、つまり知財について「権」の有る無しを明確に分けて考えている方は、多分、少ないのではないかと思ったのです。
さすがに知財を単に工業所有権と同じと言う人はいなくなりましたが、権の有る無しを明確に分けて考えている人は意外に少ないものです。権が付かない知財とは、人間が持つ知恵の総称と言ってもよいものですが、だからこそ、そこに戦略が生まれ、その戦略如何で事業展開が大きく違ってくるのです。
私の考える権の付かない知財には、他に「想いや情熱、信念や集中力」もっと言えば「魂」もあるのですが、あまり言い過ぎると宗教家と言われかねません。でも、人間には十人十色の様々な知識と気持ちがあり、そこに縁(えにし)が絡まり合ったものが「知的財産」だと思うのです。

 今、我が国ではMOT(Management Of Technology)が必要だと言われていますが、真のMOTとは、この権の付かない知財をいかに経営に活かすかどうかにかかっているのです。
 そして、それは無限に広がる事業機会の源でもあるのです。