【Vol.122】ダメに引っ張られるメカニズム

 「朱に交われば赤くなる」という成句があります。人は、交わる友によって善悪いずれにも感化される、という意味です。分かってはいましたが、身近に、そのダメに交わるとダメになって行く(厳密に言えば行きそう)人がいるのです。心配ですが、どうしてそうなるのか、そのメカニズムはどうなっているのか、これを機会にチョッと考えてみました。

 私の甥がその人です。社会人になって三年目、久し振りに会いました。「仕事はどうだい」。私の質問に、「仕事は面白いんですが、上司がダメなんです」。「オイオイ(シャレじゃありません)、青二才がそんな生意気なことを言うと怒られるぞ」。思わずそう言ってから、「どこがダメなんだ」。チョッと気になりました。
中堅の商社に就職した甥は、新人にはラッキーとも言える、新しい商材の一切を任されたようです。何もかも初めての経験ですから、最初から売れる訳はありません。試行錯誤を繰り返しているうちに、先輩諸氏のアドバイスに従っていてはダメなことに気付いた彼は、全く新しい切り口で営業したそうです。先輩から聞いた顧客には目もくれず、全く新しい顧客の開拓に努めたのです。
 そのうち、誰もが気付かなかった、その商材の新しい使い方が、新しい顧客とのお付き合いによって見出され、順調に売上が伸びて行ったそうです。当然、社長の目にも留まり、社長から直接内線が入るようになりました。そこまではいい話ですが、その先が大変です。
何と、上司からの猛烈な嫌がらせが始まったのです。曰く、「売るための営業計画書を出せ」(今、売れているのに?)、「日報をもっとしっかり作れ」(売れて忙しいのに?)、「五年先までの売上予測を作れ」(それでどうなる?)と、一人で走りまくる彼の、文字通り足を引っ張り始めたのです。

 後から分かったそうですが、その商材は、最初はその上司が手掛けたものだそうで、全く売れなかった物だったのです。ははーん、それはそうでしょう、自分が売れなかった物を、新人がどんどん売る。これはもう上司にとっては屈辱です。新人に、どうせ売れないだろうと任せた商材が、考えもしなかった顧客に売れていく。本当は、上司としては誉めるべきなのですが、面白くないのは当然です。でも、何故これほどにヒドイ嫌がらせをするのでしょうか。そこには、「足を引っ張るパワー」を作り出す何らかのメカニズムがあるに違いありません。

 「一体、どんな上司なの?」。「うーん、いつも席に居て、何をしているか分からないし、夕方になると元気になって、いつも部下を連れて飲みに行ってるらしい…」。どうやら典型的な「五時からオトコ」です。見えてきました。多分、その上司は毎晩、甥の悪口を言っているのでしょう。そして、その周囲には同じように仕事の出来ない輩が集まり、自らの出来の悪さを正当化する「もっともらしい理屈」と、後輩への「適切なアドバイス」を考えているのでしょう。とにかく、彼らには仕事をしていない分、有り余る時間があるのです。

 思い出しました。台風というのは海水の温度が27℃以上になると発達すると聞きました。海水のパワーが台風の勢力を強くする、これと一緒のメカニズムです。ダメ温度の高い者は、同じダメを集めて、より強くなろうと勢力を発達させるのです。しかも、本物の台風と違うのは、彼らには余るほどの時間があるのです。

 皆さん、如何でしょうか。ダメに引っ張られるメカニズム。お分かりになりましたか。
 えっ、こんなことを書いているヒマな奴が一番ダメだって!? ははは…。