【Vol.107】OBが現役を腐らせる

 久し振りに同窓会に出席しました。先輩や同級生、後輩の顔を見た途端に三十何年か前にタイムスリップするのですから、本当に同窓会というのは楽しいものです。歳を重ねてシブイ顔(?)になったオヤジやオバサンが、高校生の顔に戻って話すのですから、そりゃあもう、なんにも言うこと無しの楽しい時間でした。
 甲子園がずっと遠のいたままの野球部の話題になったときのことです。待ってましたとばかりに野球部だった同級生が「今度の新しい監督がダメで、甲子園なんかムリだよ」と、物知り顔で話します。そこまでは良かったのですが、「しょうがないから、俺がチョッと指導してやったんだけど…」。どうやら、新任監督の監督を始めてしまったらしいのです。「好きにやらせてあげなよ。そのうち成果が出てくるから」。そう言うと、「見ててダメなんだから、やるしかないだろう」、「後輩がかわいそうだと思わないのか」。

 皆さんはどう思いますか。チョッと違いますよね。このままだと、後輩が余計にかわいそうになってしまいます。一生懸命にやっている監督の横に、先輩だからといって監督みたいに振舞うオジサンの姿を、一体、彼らはどう見ているか。そう考えるだけで、とても恥ずかしい気持ちです。
 監督は、会社で言えば社長みたいなものです。高校野球なら、球児にとっては絶対の存在です。その目の前で、以前に卒業しただけの年長者が、しかも、現役を離れて腹の出たオジサンが偉そうにしている。これは、大袈裟に言えば、最も基本的な人間の尊厳を冒しているといってもいいのではないでしょうか。
 同窓会の和んだ席で、それ以上は言いませんでした。でも、段々、無性に腹が立ってきたのです。その同級生に対してではありません。ある会社のことを思い出して、自分とは関係ないのに、その会社の社員の気持ちを思うと腹が立ったのです。
 以前、「うちは歴代社長や役員が顧問や相談役となって、ずっと会社に出社しているんです」。「秘書と車を与えられて、自分が言い出すまで引退しないのです」。そう言われたのを思い出したのです。一旦、退職した経営幹部が、最上階に居座っている。改革をしようとする現役社長を呼びつけ、昔の部下だったその社長に当時と同じ言い方で、「君に教えてあげようと思うんだが…」。

 この話の構造は同じです。タダの人になった筈のOBが現役を腐らせてしまう…。一番かわいそうなのは社員の方々です。前を見て改革しようとしている社長の頭の上に、以前の社長が偉そうにして居座っている。それは伏魔殿そのものです。
 今、このような構造で活力が損なわれている会社が多いのではないでしょうか。今、伏魔殿を生むような潜在的な風潮が、この日本にはありませんか。

 若い監督と一生懸命でひたむきな球児を、ネット裏で温かく見守るOB。
 そのような現役とOBの関係が当り前の社会にしなければいけません。
 えっ、私ですか。私はそのようなことはありません。だって、ずうっと現役なんですから。