【Vol.92】先祖返りビジネス

 最近、「先祖返りビジネス」的開発テーマに出会うことが多くなりました。先祖返りとは、生物の進化の過程で失われた形質が、子孫において突然表れることですが、似たような開発テーマもあるのです。今回はそのお話です。

 例えば、金型の仕上げ工程で欠かせない「きさげ」です。きさげとは機械加工をした後、超精密な面を仕上げるために手作業で行う仕上げのことですが、そのきさげの出来る職人が極めて少なくなってしまいました。
 世界に誇る金型技術の、一番差が出る仕上げ技術で、残念ながら競争力を失いかけているのです。ですから金型業界では、一度は退職した職人さんをまた雇い入れて、後輩の教育をし始めたということです。
 また、COBOLもそんなテーマの一つです。COBOLとはコンピューターの事務処理用の汎用プログラム言語で、1960年代にアメリカで開発されました。その言語で書かれた(システム化されたソフト)コンテンツは「COBOL資産」とも言われ、多くの業務に活用されています。銀行など、多くの顧客情報を扱う企業は、全てCOBOLのお世話になっていると言って良いくらいです。そして、ハードがパーソナルコンピューター(PC)に移行すると、その資産も新しい言語で書き直す必要があるのですが、何と、ここでも同じような問題が起きています。COBOL言語を操れるSE(システム・エンジニア)が極めて少なくなってしまったのです。かつて、COBOL言語でシステムを構築していたSEは既に定年退職の世代ですし、残っていたとしても皆管理職です。今、現場にCOBOLの分かるSEがいないという、深刻な問題が潜在的に横たわっています。
 いずれのケースも再び訪れたビジネスチャンスだと思えば、「よーし!」とてぐすねをひくところですが、悲観的な見方をする人が多いようです。「もう終わった過去の仕事だ」とか、「いずれは無くなる技術だから」なんて言われます。「超前向き開発マン」の私は、木道が暗くなるばかりでした。

 そんな事態を心配していた私ですが、ホッとすることがありました。何にホッとしたか?それが苔(こけ)なんです。クライアントで苔の開発を進めている企業があるのです。ご案内のように、東京では新築のビルには「屋上緑化」が義務付けられるようになり、そのコストをどう吸収するかが課題になっています。クライアントは、その緑化に苔を使おうと考えたのです。ある種の苔は殆ど手が掛からず、水遣りも自然任せで良く、「緑化のホープ」として、そのコストの問題を解決できるかも知れません。丁度、他のクライアントが出願していた特許も活用できるとあって、私も嬉しく思っています。

 実は、この三つのテーマに共通しているのが先祖返りです。いずれもちっとも新しくはありません。でも現代に於いて蘇る、或いは蘇らせることで大きなビジネスチャンスに繋がるのであれば、それは新しい開発と同じです。先祖返りとは、失われたものの復活であり、価値の再生とも言えるのではないでしょうか。

 そう言えば、古美術品の復刻モデルやオールディーズなど、私達の周りには古き良き時代を振り返るビジネスが盛んです。そのような視点でこの国を見渡すと、「先祖返り資源大国」に見えてきたのですが、皆さんは如何でしょうか。