【Vol.79】「創造」の意味

 ある方と話をしていたら変なことに気付きました。その方が盛んに「これはソウゾウです」と言われるのですが、私にとってはちっとも創造的ではないのです。従来のものを少々改善したくらいの話で、言ってみれば「アレンジ」です。そこで、本当の創造の意味を確認しておく必要があると思いました。

 創造とは、何かを単純に造り上げることや、初めて考えることではありません。創造の「創」にはキズの意味があり、従来のものを破壊するほどの強い意志が伴う開発行為です。つまり、何も無いところから始めるのが当たり前で、もし何かあったら、それを一度破壊して何も無い状態に戻すくらいの、強い意味があるのです。天地創造とは神様が宇宙を造られた神話ですが、それまで無であったところに宇宙を造られたのですから、これは文字通り創造なんです。

 ずっと以前、私は創造の本当の意味を教えてもらってすごく感動したことを覚えています。それまでは開発を進めるときには、新しい知見であるとか、何かをあてにしたり参考にする事が重要ではないかと考えていた時期があり、その為には前例や習慣を調べてからでないと物事は進まないと勘違いしていました。ですから、その知識を元に何か偉そうなことを言っても、世の中は広いもので、私よりずっとずっと知識をお持ちの方やその道の大先輩がおられ、その方々から見れば、すぐに情報の出所とか知識の拠所を見透かされ、結果否定されてしまうのです。正に、浅学非才の私にとってこれは重要な問題です。コンサルタントとして何も供給すべき情報がないのは、製品を持たないメーカーと同じようなものです。
 そのとき、タイミング良くこの創造の意味を教えてもらったのです。前例に囚われることは不要なことで、もしあったとしても一度それを破壊することから新しいことが始まる。創造の創という字は・・・と教えられたのです。それからは、あまり前例に拘らずに、自分なりの考え方や新しく考案したものをそのまま伝えるようにしたのです。
 そうすると、それまでとは違って私の意見を聞いてくれる方が多くなり、特に、現場に出向いた実際の体験に基づく意見には、殆どの方が興味深く耳を傾けてくれるようになったのです。

 勿論、温故知新という言葉があるように過去に学ぶ事は必要で、先輩の素晴らしい知見を無視するのはいけません。
 申上げたいことは、新しいこと、特にそれまで誰もやっていなかったことを考えるときに、私達は何にも囚われることは無い、ということです。もし誰かが、その案件に近い前例や、似た話を持ち出して反対するなら、それは新しいものではありません。本当に創造的なことには前例や似た話などはあり得ません。

 高度経済成長期に慣れ親しんだ事業構造が、中国を始めとする新たな勢力に、コスト競争で負けている状況を乗り越えるために、今、私達は本当の「知恵の創造」をしなければならないのです。