【Vol.71】戦略とは指針の無いもの

 ある経営者と戦略論になりました。経営戦略がどうのこうのという延長戦で、戦略とは一体何か、という議論になったのです。
 実はその議論の中で気になることがありました。その社長が「戦略の指針が無ければ判断できない」と言われたのです。「自分が意思決定できるよう、他に参考になる指針が無いと決められない」と呟いたのです。私は驚いたと言っていいほど違和感を覚えました。私が考えている戦略論と大きく違うと思ったからです。

 色んな戦略論があると思うのですが、私なりに戦略の定義があります。
 先ず、戦略とは戦術よりは大きく、そして上位にある作戦計画です。また戦術は戦闘よりも上位に位置付けられたものです。つまり、戦略があり、それを遂行するための戦術があり、更にその計画を細分化して遂行するのが戦闘です。
 軍隊はその作戦遂行レベルに合わせて階級があり、責任分掌が明確になっています。当然、上位の将官から下位の将兵に命令が伝達され、作戦計画が実行されるのです。

 会社の経営も同じようなもので、トップである社長が戦略を立て、それが役員以下の社員に伝達されて経営が成り立つものと思っています。役員以下の社員は上位の責任者から、経営に関する計画や企画を示され、それを実行して行くのが務めです。つまり、上の人のいうことをよく聞いて、その業務命令を着実にこなせば良いということです。
 ですから厳密に言えば、「経営責任」とは経営トップにのみ存在するもので、社員にはありません。役員以下の責任は「業務責任」ということで、責任が無いのではなく、その戦術、戦闘レベルに相応する責任は明確にあるということです。

 ここで、戦略にはいつも指針など有り得ないと申し上げたいのです。戦術、戦闘は上から降りてくる指針に従うものです。でも、戦略は上から降りてくるようなことがあるのでしょうか。独立した会社の社長が、他の誰かの指揮によって動く事があるのでしょうか。自立した会社の最高指揮官が、他の誰かに命令されてはシャレになりません。物事を進める一番大切な方針を他の誰かに提示してもらうようなら、社長ではありません。
 まぁ、そう目くじらを立てるほどの話では無いかも知れません。でも、自己確認の意味でも言いたいのです。戦略とは指針の無いものです。

 ですから、その戦略を立てる経営トップは常に孤独で、しかも経営責任を一身に受けなければならない唯一の存在なのです。