【Vol.70】顧客の主観を知ろう

 企業は「マーケティング・リサーチ」をします。市場動向や商品価格、広告、販売ルートを決めるための調査活動です。多くの場合、より多くの顧客に買って頂きたいので、自ずと調査の対象は一般的且つ広域的になるのが通例です。
 しかし、その手法ならではの判断ミスやトラブルが、最近多いように思うのです。例えば「狂牛病」問題に端を発する食品メーカーの対応です。それを見ていると、明らかに多数派意見に寄り掛かり、その逆の個人が持つ潜在的・本質的なニーズを読み違えているようなケースがあるのではと思えるのです。

 従来、メーカーは明らかに顧客の一番の関心事は「良い物を安く」と受け取り、そう決めていた節がありました。要はスーパーなどの店先に並ぶ商品ラベルのブランドと値札に付く値段が大切だと、言葉は悪いのですが「高を括った」のではないかと思うのです。自社のブランドに自信は有るし、その上安いのだから顧客は絶対に買うだろうと、顧客を甘く見たり侮ったのではないのでしょうか。
 多くの客がそうだろうと思ったのかもしれません。でもどっこい、そうは問屋が卸しません。実は顧客が本当に欲しいコト、それは「安全・安心」だったのです。確かにブランドも大切、価格も見ます。でも、本当に顧客の主観として大切なのは「食に対する安全・安心感」だったのです。多くのメーカーはマーケティングの常套手段である「客観」にこだわるあまり、実は客の潜在的な「主観」を測ってはいなかったのではないかと思うのです。

 これが大きな落とし穴です。恐らく、担当者はマーケティング情報からあがってくる客観データを経営者に伝えたのでしょう。「我々の商品は信頼されています」。「子会社の問題として処理すれば本体には傷はつきません」。そんな会話があったかどうか知る由もありませんが、想像は出来ます。
 その場に居る皆が拠り所にしている情報は全部他人事で、誰も「自分の主観」で考えてはいなかっただけの事です。企業を守る気持ちがあるのかもしれません。でもそれは、所詮、自分から客観的に位置する企業・組織を守りたいだけの話です。

 「自分が食べる、或いは我が子に食べさせる」という、主観的な立場で考えたなら、絶対あんなことは起る筈がありません。そう、実はその担当者も客という主観的な立場も併せ持っているのです。
 主観とは自分が自由に考えることや感じ方、自我そのものです。素直に物事を判断するとき、ある意味で一番確かな考え方は主観を見つめることではないでしょうか。