【Vol.63】信念の競争力

 競争力と言うと、先ず品質、そしてコスト、続いて納期などを挙げる方が多いと思います。わが国がここまで来れたのは、産業界における競争力が優れていたからで、特に品質では圧倒的な優位性があったからだと信じています。
しかし、優位だと思っていた競争力に最近かげりが見えています。日本に追いつけ追い越せとばかリに、機械や装置の自動化・省力化も世界的に普及し、その上システムやオペレーション技術も高度にこなすようになって、わが国の技術を凌駕するようになってしまいました。
また、コストにおいても中国をはじめとして、何でこんなに安くモノが作れるのだろうと思うくらいに、ローコスト製品が当り前になっています。何でも、中国のある地域では日本の57分の1の人件費だそうで、こうなると、もうコストで戦おうなんて考える余地もありません…。こう書くと、またその話かとお思いになる向きも多いと思いますが、今日の話はちょっと違って、競争力を保つ秘訣が見つかったと言う話です。

 ある人と、最近知り合った経営者について議論する機会がありました。議論とは少し大袈裟ですが、まあとにかく、その経営者はメゲナイところが凄いのです。ご承知のように、わが国においては、何をするにも資格や許認可と言う類の規制が多く、したいことがあっても具体的に計画すると「出来ない!」、となってしまうことが多いものです。この経営者も、このような境遇の中でご苦労を重ねた上で成功された方ですが、その経営者が何ゆえ成功されたのか、その本質を探る議論と言ってもいいでしょう。
 詳細については生々し過ぎるので割愛しますが、彼の経歴を簡単に言えば、要するに「官」の規制に阻まれ、それを克服したら今度は同業者に憎まれ、挙句にちょっと古い言い方ですが村八分にされ、ずうーっとイジメられてきた経営者、といったところでしょうか。私達の議論の焦点は、そのような境遇を克服した原動力は何だったのだろうか、という一点でした。絶え間ない圧力に屈せず、何故頑張れたのか、その原動力は何なのか。別に優れた技術やシステムを持っていたわけではありません。勿論コストについては、比べればかなり高いのですから、論外です。同じようなことを考えた経営者は他にもいたのに、なぜ彼だけが成功したのか、なかなか結論は見出せません。

 でも暫くして、ふっと閃いたのです。それは、信念の強弱ではないのだろうか。その視点です。
 困難にぶち当たった時、それを乗り越える力はなんだろう。そのとき、信念が有るのか無いのか、それで決まるのではないか。そう結論付けると、彼の凄さが説明できたのです。繰り返し繰り返しめげずに挑戦する信念。正しい事を言い続ける信念。そう、信念があったから、しかも人一倍強い信念があったから成功したのではないかと思うのです。

 「信念の競争力」。馴染みの無い言い方ですが、これからの経営に欠かせない大きな意味を持つチカラではないでしょうか。