【Vol.62】技術の相対性理論

 様々な業界に出入りして開発を進めていると、その業界には通用しなくなった技術のあることが分かります。業界全体が進化して繁盛し、そして衰退して行く過程で技術も廃れて行くということでしょうか。特にメカトロニクスといったような業界はその度合いが速く、周辺の技術も目まぐるしく進化します。
 そして、その技術もまるで日替わりのように入れ替わります。新しい技術やソフト、システムが台頭し、それまでの技術を駆逐するかのように陳腐化させてしまいます。一体、落ち着くことがあるのだろうか、技術というものは、そのものが進化したり廃れたりを繰り返すように出来ているようです。

 こんなふうに感じていた私ですが、その技術について考える事がありました。
 生まれて初めてマグロ船に乗ったのです。遠洋漁業を体験した訳ではありません。ドックの船台に載っているマグロ船に乗ったのです。中に入ってビックリしました。兎に角、狭いのです。
 当り前ですが、マグロを捕るために作られた船ですから、人に優しく出来てはいません。船室のベッドはこれで寝返りが出来るのかと思うくらいに窮屈そうです。一航海で数億円のマグロを水揚げする船は、全てマグロ中心に作られているのです。一回り見学し終わって、ふと気付きました。自動化・省力化が殆ど行われていないのです。マグロを揚げて、処理する工程は全てが人力で、マグロの搬送機などありません。甲板から冷凍庫に通じる狭い入り口に、マグロを抱えて通す作業を想像しただけで、ご苦労様ですと言いたくなりました。

 気が付くところの省力化・自動化をご提案すると、船のオーナーでもある水産会社の社長は、「え、そんなことが出来るんですか」と、一つひとつにビックリされています。私としては、そんなに凄いことを申し上げている気はありませんが、社長にとっては初めてのことなのです。「この業界は30年間同じ仕様で船を作って、30年間同じ仕事の仕方で来たんです」。そう言われれば、メカトロニクス業界とは接点のあるはずも無く、ずうっと同じようにして来たのでしょう。

 社長にとって、私の言うことは全てが新技術に聞こえているようです。しかし、私にとってはとうに陳腐化した(筈の)技術なのです。このギャップはどうしてでしょうか。ある業界では陳腐化した技術が、他の業界では新技術として迎えられる…。「そうか、技術そのものは陳腐化するものではなく、その業界が陳腐化してそれに連れて廃れたように見えるだけ」。そう気付いたのです。
 技術は不変なもの。だから、今までとは違う業界に用いられると、途端に輝きを取り戻す。技術は不変で必要なもの。ただ、業界との相対性で価値が変わる。これを、技術相対性理論、なんちゃって。