【Vol.51】やっぱり『五重苦』の時代

 先日、中小企業支援事業のお手伝いで訪問した企業のお話です。
 その会社は、戦後まもなく創業した、電気機器のメーカーです。プレスの仕事から始めて、その部品を組み立てることも手がけ、いつの間にか最終製品まで仕上げるようになったとの事です。一見、そんなに付加価値はなさそうに見えるのですが、同様の製品からはライバル企業も手を引いてしまって、独占とは言えませんがまずまずの稼働率とお見受けいたしました。
 工場に入るとプレスの音がダンダンと耳に突き刺さります。もう、若い人は嫌がるのでしょうか、どちらかと言うと中高年の方々が、手馴れた感じで黙々と働いておられます。よく見ると、さして難しそうには見えない作業も、ベテランにならないと出来ないと思われる、結構、高度な組立作業を伴う作業も、苦も無くこなしているのに感心しました。

 事務所に戻り、「いやあ、ずいぶん高度なことをやっておられますね」と言うと、「そんな、単純作業ですし、慣れれば誰でも出来るんですよ」と社長が言われます。「でも、案外大変なことだから、同業他社が手を引いてしまったのでしょう」と、重ねて申し上げると、そうかもしれないと納得のご様子です。

 そこで私は、いつも私自身が言っている「五重苦」を思い出しました。
 五重苦とは、少量、多品種、異形、不定期、低頻度のことを指しています。大量生産時代の基本である、大量、均一、定形、連続、頻発生産システムとは全く逆の発想で、一見誰でも嫌がる、効率がとてつもなく悪い生産スタイルです。誰でも嫌がるので、あえて五重苦とシャレで言っている、私が標榜するモノ作りの基本コンセプトです。
 「五重苦だから、良かったんですよ」。少し説明を加えると、社長はもちろん、その場に居た方々が大きく頷きました。そうです、昔から無意識の内に五重苦をいとわず、コツコツと真面目に顧客の我がままに耐えて、地道に対応してきた結果が、あたかもウサギと亀の寓話のように、結果を大きく変えた要因になっていたことに、皆さんが気付いてくれたのです。

 ショウリョウ、タヒンシュ、イケイ、フテイキ、テイヒンド。

 そう言えば、京都のお土産に買った老舗の和菓子も、手作り工芸品で有名な銀座のあの店も、よくよく考えると五重苦生産方式と言えなくもありません。
 いつの時代も強い会社の本質は同じです。
 これからのニッポン。やはり五重苦で行こうと確信した次第です。