【Vol.50】小さな村の大村長

 人口約2000人、世帯数約500世帯、総面積40.92平方キロ。そのうち65歳以上の人が4割近くを占めている。これが富山県婦負郡 山田村です。
 この山田村にふとしたご縁から、訪問する機会がありました。噂には聞いていましたが、皆さんご存知でしょうか、こんな小さな、田舎の(失礼!)村なのに、全戸にパソコンが配布されているのです。しかも、しっかりと高齢化している村なのにです。更に、近々、全戸を光ファイバーで繋ぎ、大容量の通信インフラを構築するというのですから、驚きというか、ビックリしました。のどかな山間地と最先端のIT環境。何というミスマッチ…。と最初のうちは思っていましたが、村長さんとお話しして、漸く合点が行きました。村長さんは小柄で、どこかで会ったような気さえする、とても気さくで、要するに、典型的な田舎のオッちゃん(又々、失礼!)です。でも、話すうちにこの村長さんが、とてつもない戦略家に思えるようになりました。

 「何時まで山田村があるかわからんし」。冗談なのか本気なのか、その語り口は方言丸出しです。笑いながら聞くうちに、本気だと気付くのに、そう時間は掛かりませんでした。国の市町村合併という基本施策が決まった以上、ジタバタしても始まらない。むしろ、早いうちに、この故郷の先行き・行く末を、しっかりと決めておこう、という強い信念が感じられたのです。
 「村おこしがITなんだ」。ITを「あいてー」と発音する村長は、「この村に大勢の人が来て欲しい。会いてーよ」というシャレに聞こえるほど、自信に満ちて、決まっているのです。人懐っこい目をクリクリさせて、更に、「農作物は何処とも同じ。特産品も何にも無い。だから、村の目玉がITなんだ」。と言われると、これを戦略と言わずに何と言うのでしょうか。

 言うまでも無く、IT・情報通信技術は、ビジネスの世界で使うもの、と多くの人が考えています。いや、そうではなく、老若男女、誰でもその恩恵がある筈だ。とは言うものの、ハッキリとしたシーンが描けずにいるのが現状です。それが、この山田村では、当り前に高齢者(チッとやソッとの高齢者じゃありませんよ、これが)が、パソコンに慣れ親しんで使いこなしているのです。その上、このような環境にある村全体が、一種のショーウィンドウのように、誰でも覗けるように、インターネットで繋がっているのです。

 「電脳山田村」。一体、誰が呼んだのでしょうか。そうです、この村は、村全体がサイバー空間を構成し、それを丸ごと閲覧できるようにしようとしているのです。「都会の人が、村の田んぼのオーナーになってくれて、村民が代理で耕すんだ。その様子を、いつでも自由に見れるんだ。会話もインタラクチブで出来るよ」。
 楽しそうに、しかし、キラッと光るその眼差しは、正しく大村長の威厳に満ちているように、私には感じられたのです。