【Vol.39】猜疑心

 アライアンスを結ぶことが、これからの新事業・新商品開発において、最大限に経営資源を活用しながら、しかもリスクを回避する、最も有効かつ最良の戦略である。
 この実践を日々進めている私にとって、一番いやなことが、先日起きてしまいました。私のクライアントが開発した情報機器を、他のクライアントで進めている新事業の情報端末として使おうというプロジェクトです。
 双方の顧問という立場で、事を進めるのですから、お互いに良いように考えるのは当然のこと。と、私は思い、また、そう理解していただいているはず…。実は、それがそうではなかったのです。

 詳細を説明します。今、情報機器メーカーにとって、従来の販売手法では、もう利益が上がらないのが現状で、どうしたら、情報機器メーカーとして利益を確保して行くのかが、緊急の課題です。ですから、このプロジェクトでは、いっそのこと、従来からの「売る」立場ではなく、「使ってもらい」ながら、その使用料を継続的にいただくという、ビジネスモデルを考えました。そして、そのビジネス・フィールドとして、新事業を企画していたクライアントに、「タダで情報機器を使ってもらおう」という話を進めていた訳です。

 しかし、その「タダで使える」側のご担当は、「タダと言うのが怪しい」「きっと何か魂胆があるに違いない」と、なかなかこのビジネスモデルを理解しないのです。しないと言うより、シタクナイと言った方がよいくらいに頑なで、提供側のご担当が訪問して説明しているその席でも、それは、私が恥ずかしいと思うくらいに、懐疑的な態度を崩しませんでした。
 「もう、情報機器のビジネスではハードの付加価値を認めてもらえないのです」。訴えるようなご担当に投げる視線は、冷たいと言うより、猜疑心の塊のように見えました。正確に言えば、その方はクライアントの社員ではなく親会社の人ですが、いくら立場上、慎重さが必要とはいえ、私はとても残念で暗く沈んだ気持ちになってしまいました。

 開発の話をしているはずなのに、相手を始めから疑うことなどあるのでしょうか。創造的な仕事の中に、猜疑心を持って臨む必要が、何故あるのでしょうか。
 ビジネスとは、単に「売ること、買うこと」ではないと、私達は気付き、そして学ばなくてはいけません。いつも言うように、売買だけの関係は、単に価格だけの競争になるだけです。

 価格に関係ない間柄(あいだがら)になる第一歩は、信頼することです。
 猜疑心は、信頼関係と最も遠く、そして最も大きな障害なのです。