【Vol.36】タクシードライバーの戦略

 最近、タクシーに乗って、教えられることが2回続けてありました。

 1回目は、成田空港からの帰りに乗ったドライバーさんです。ワゴン車が必要なくらいの大荷物だったので、近くにいた普通車のドライバーさんに紹介を頼みました。すると、「ちょっと待ってて」といって、携帯から電話してくれました。
 そうして来た、ワゴン車のドライバーさんに、「友達が紹介してくれたんだネ」と言うと、「日頃から、色々してるから…」と、日頃の協力関係を少し話してくれました。

 暫く走っている間にも、ドライバーさんの携帯に次から次へと電話が入ります。始めのうちは少し不快に思いましたが、その内、聞くともなしに聞いてしまいました。どうも、女性からの予約や、何かの相談のようです。
 「ドライバーさん、随分もてるね」。私が冷やかすと、「いや、お客さんですよ。全部スチュワーデスです」とのこと。続けて、「今、40人位いるんですよ」。よく聞くと、このドライバーさんは、常連というより、個人契約的なスチュワーデスさんの固定客を持ち、24時間体制で送迎しているのだそうです。相手が国際線のスチュワーデスですから殆ど長距離の客で、売上は普通のタクシーの3倍から4倍にもなるそうです。
 素朴な疑問で、何故そんなに指名してもらえるかと聞くと、「とにかく、相手がスチュワーデスだと判ると、徹底的にサービスしたんですよ」「特に、悩み事の相談なんかを、親身になって聴いてやると、随分喜ぶんですよ、これが」というのです。

 普通なら、会話もせずに走るだけなのに、このドライバーさんはお客のそれもスチュワーデスさんに絞って、心のサービスまでを徹底的にしてあげているのです。国際線の激務をこなし、家路につく車の中で、フッと出る愚痴や憂さ晴らしを優しく聴いてあげれば、それは常連になるのは当たり前、というものでしょう。

 2回目は沖縄のドライバーさんです。講演会場から空港まで乗ったのですが、とにかく、降りるまでずっと観光案内をしてくれるのです。あまりのサービスに、「今度来て観光するときには頼むね」と言うと、さっと自宅と携帯の電話番号が入った名刺をくれました。お釣りを貰いながら、気が付きました。ドライバーさんの身嗜みがとてもバリッとしてステキなのです。きっと、こんなふうにしてリピート客を増やして、実入りも良いのでしょう。私が「やはり営業が大事だね」と言うと、「お客さん、営業と言うより、本当にしてあげたいことをしているだけなんです」。
 繰り返し繰り返し、真心でもてなされた客は、もう「特定の顧客」に組み込まれる運命です。
 これを、ドライバーさんの「戦略」と呼ぶには大袈裟でしょうか。