【Vol.34】NASAの技術

 冬休みに、NASAのケネディセンターを見学する機会がありました。ちょうど、スペースシャトル「エンデバー」を、組み立て工場から発射台まで専用台車(キャタピラ一枚がタタミ一畳くらい。とにかくデカイ!)に載せて、約5キロの距離を時速1キロの速度で運んでいる、その現場に出会う幸運にも恵まれました。
 展示場は、科学技術の先進性を誇るというよりも、むしろ殉職者を含めた先達たちの功績を顕彰するような構成でした。月面着陸を31年前(1969年7月20日)に達成した偉業を誇るより、そこまでのプロセスを重要視しているような感じでした。圧巻だったのはサターン5型ロケット18号の実物で、長さ111メートル、打ち上げ時総重量3000トンが横たわっている姿には、本当に圧倒されるばかりでした。

 びっくりしたことは他にもありました。それは、ジェミニ計画で実際に使われ、無事帰還した有人衛星カプセルです。大気圏に突入したときの、痛々しいような焦げ痕に感動したのですが、よく見ると、表面のカバーはビス留めで、しかも所々に締めすぎたようなキズがあったのです。全体の構成も全部手作りで、職人さんの息遣いが感じられるようでした。つまり、NASAの技術というのは、ハイテクばかりではないと思ったのです。

 屋外の展示場には、マーキュリー、ジェミニ、アポロ計画に使われたロケットが展示されていましたが、ここでもちょっと意外な発見がありました。ロケットのエンジン部分の構造が、思ったより、普通の技術で構成されていたのです。3,40年前だからそう感じるというのではなく、当時でさえ、それ程のものではない設計なのです。そう言えば、ドキュメント映画に出ていた設計者は、手書きの製図板に向かって作業していましたし、当時のコンピュータは真空管でした。

 一つ一つは普通の技術なのに、その総合体が宇宙を制覇する・・・ふっと、どうして我が国とこんなに差がついてしまったのかを考えました。同じ人間、同じような技術、と決めてしまうには、当時からの政治的、経済的な環境が違い過ぎるかも知れません。が、あえて比較して感じたのは、「コンセプトの力量」です。本質的な構想、基本的な概念。そのような、最も重要な土台を明確に決める力です。そのコンセプトに則っていれば、若い人の意見も採用される、そんな風通しの容量の大きさです。
 帰りのバスに揺られながら、日本のロケットもちゃんと上がるように、と念じました。