【Vol.22】生みの親

 鳥取県境港市に「水木ロード」という、妖怪たちの路があるのをご存じでしょうか。そう、あのゲゲゲの鬼太郎やねずみ男など、ブロンズ製のキャラクターが延々1キロ以上並んでいる商店街です。私は1年半くらい前に行って以来すっかりはまってしまい、仕事が終わってフライトまでの待時間がある時など、必ずと言って良いくらい訪れるようになりました。
 そして、何回か歩くうちに、どうしてこのような路ができたのか、不思議になりました。いくら水木さんが境港市のご出身とはいえ、これだけのキャラクターを簡単に使用させるとは思えません。もしそうだとしても、その版権使用料は莫大なものになるでしょう。「きっと何か特別なことがありそうだ」。水木ロードの生い立ちは、いつからか、謎になってしまいました。

 そんなある日、クライアントのご担当が何気なく、Kさんの話をされたのです。「Kさんという市役所の方が、タダでキャラクターを使えるようにした」。
 にわかには信じがたいことですが、事実です。まちおこしの目玉にと水木先生のところに通い続けたKさんに対し、その余りの情熱に、逆に水木先生がその人柄に惚れてしまい、無償で鬼太郎たちを街に立たせることを承知したというのです。世界中にファンがいて引っ張りだこのその版権を、水木しげるさんはKさんに一任し、境港市の為に役立てようと決心したのです。

 今度は、「鬼太郎やねずみ男の生みの親が惚れ込む人物とは、どんな人か」が、謎になりました。当然、ご担当にはぜひ会わせて頂くようにお願いしておきました。
 そして、2ヵ月。会える日が来ました。向かう車で、Kさんを想像しながらとても穏やかな気持ちになりました。不思議なことに、まだ会ってもいないKさんの顔がはっきりとイメージできるのです。温厚で実直そうな表情で私と話す場面が、まるで夢を見るようにはっきりと浮かんでくるのでした。
 そして、美味しい魚をつつきながらの会談は、まさしく至福のとき。現在、役所をも退職して水木ロードに献身されているKさんは、想像どおりのお顔で、しかも仙人のように達観した眼差しです。「本当に水木先生に報いるために全てをかけたのです」。事も無げに話されるその肩に、目玉おやじが腰掛けています。鬼太郎やねずみ男も挨拶に来て、帰る頃には、砂かけ婆、一反木綿、ぬりかべ、こなき爺、猫娘、出たり入ったりで大騒ぎ。もう、大変でした。
 謎が解けました。水木ロードの生みの親は、Kさんです。