【Vol.18】分水嶺

 旅の楽しみの一つに、分水嶺があります。河川の源流が山脈の頂点を境に分かれるところです。特に私が好きな分水嶺は、鉄道に沿ったものです。中国山地を越える鉄道に乗ったときなどは、車窓から見える川を右に左にと座席を乗り移りながら、飽きずにずっと見ています。はっきりと、ここが分水嶺だとわかるところが多いのですが、気付かないうちに分水地点を越えてしまい、流れの向きが逆になってはじめて分かるときもありします。
 平地を走るのと違って、ゆっくりと曲がりくねった川沿いを喘ぐように上って行く鉄道が、ふーっと走り方が楽になり少し加速したように感じたら、そこが分水嶺です。気のせいでしょうか、風景も変わったように見えて、心も軽くなる思いです。川の流れ出る先には大海が待っている。そして、海の水となって世界中を旅して行くのだ…、なんて考えると、自分の気持ちも大きくなります。

 なにも、分水嶺くらいのことで大げさな。そうかも知れません。でも、私は分水嶺が自分を励ましてくれるものと思って見ているのです。水の流れは低いところに自然に流れる。誰でも知っていることですが、そのスタート地点(始点)がはっきりしているものはそう多くはありません。ここから、この川が始まる。そう思うと、分水嶺はまさに新たな出発点として、私の気持ちを引き締めてくれるからです。
 物事には、始まりがあり、終わりがあります。しかし、水は川となり、分水嶺によって繰り返し繰り返して、大海に注ぐことが出来るのです。分水嶺を越えると川の名前が変わります。そして地名も変わり、そこに住む人も変わり、風土・文化も変わり、新しいものに出会えるのです。
 今、私たちは出口の見えない経済環境の中で、これからの分水嶺を新しく探す必要があるのではないでしょうか。大きな川でなくてもいい。小さくて始めは弱々しくても、きっと大きな川になる。そう信じて、今までと違う豊かな海に出るために、自分の為の分水嶺を決めるのです。