【Vol.7】ボタンの掛け違い

 仙台BP講座OBのSさんに「どうしても」と言われて、その工場を訪問することになりました。
 データを取り寄せて拝見すると、どうみてもうまく行っていない感じです。でも、Sさんの熱意に押されたのと、私の鼻もヒクヒクしたので行くことにしたのです。
 開発中の製品はいわゆる位置決め装置で、ロボットのアクチュエータ(動力装置)になるものです。従来にはない構造のもので、でも考えてみれば非常に合理的な製品でした。ある意味で、目からウロコ状態になった私ですが、開発の方向性には首を傾けてしまいました。なぜなら、その用途がどう考えても違っていたからです。
 社長さんをはじめ、会社の皆さんが目指す方向には、その製品を生かせるニーズは無いに等しいのです。このようなとき、適当に誉めて帰ってしまえばよいのかも知れませんが、私にはそれができません。ダメなものを見過ごすのは、親切ではないからです。
 不機嫌になるのを承知で「皆さんの考えている先に市場はありません」と申し上げ、続けて、本当に使ってもらえる市場のニーズについて提案したのです。そうしたら、今度はむこうの目からウロコが落ちました。

 そこから先はもう開発会議です。こうしよう、このほうがいいぞ、といった前向きな意見がそれこそ矢継ぎ早に出て、大いに盛り上がりました。
 帰りの新幹線でウトウトしながら、「ボタンの掛け違い」だったのだと思いました。着想や技術はよかったのに方向が違っているだけ、そう、ボタンを掛ける穴が違っていただけなのです。街を歩いていると、ボタンの掛け違いに気付かずにいる人を見かけます。それに気付いたとき、あなたならどうしますか。
 ましてや、そのあなたがビジネス・プロデューサーだったら…。